隣地の塀が自分の土地に入っている|越境が判明したときの対応
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不動産の売買において、境界確定測量を行ったところ「隣地のブロック塀が数センチ自分の土地に入っていた」ということがあります。
一見すると、「隣地の塀なのだから撤去してもらえばよい」と考えられそうですが、実際の境界実務はそれほど単純ではありません。
そもそも本当に越境しているのか。
境界として認識している線は「筆界」なのか「所有権界」なのか。
その塀は本当に隣地所有者の単独所有物なのか。
地上部分だけでなく基礎部分はどうなっているのか。
さらに、不動産を売却するのであれば、越境を解消するのか、越境確認書を取得して現況のまま買主へ引き継ぐのかまで検討する必要があります。
今回は、隣地の塀の越境が判明した場合の対応について、不動産売買の実務を踏まえて詳しく解説します。
■まず確認したい「境界」と「塀の位置」は別の問題
最初に重要なのが、
「塀がある位置=土地の境界」ではない
ということです。
古くから存在するブロック塀やフェンスが、そのまま境界線上に設置されているとは限りません。
境界より自分側に設置されていることもあれば、逆に隣地側へ入り込んでいることもあります。
したがって、塀の位置だけを見て「ここが境界だ」と判断することは危険です。
確認するときには、
・登記所備付地図、公図
・地積測量図
・過去の確定測量図
・境界確認書
・道路境界確定資料
・現地の境界標
・過去の分筆資料
・現況測量結果
などを総合的に確認します。
最終的には土地家屋調査士等による現地測量を行い、境界点と塀との位置関係を確認することが基本です。
■「筆界」と「所有権界」は必ずしも同じではない
境界問題を理解するうえで重要なのが、「筆界」と「所有権界」の違いです。
筆界とは、土地が登記された際に、その土地と隣接地を区画するものとして定められた公法上の境界です。
これに対して所有権界とは、私人間における土地所有権の範囲を示す境界です。
通常は両者が一致していますが、必ずしも一致するとは限りません。
法務省も、筆界と所有権の範囲は異なる概念であり、筆界特定制度は土地所有権の範囲そのものを確定する制度ではないと説明しています。
そのため、測量によって塀が筆界を越えていることが分かったとしても、過去の経緯によっては所有権界について別の問題が存在する可能性があります。
■境界標があっても、それだけで境界が確定するわけではない
現地に境界杭や金属標があると、その位置が絶対的な境界だと思われがちです。
しかし、境界標自体が移動していたり、過去の工事で復元位置を誤っていたりする場合もあります。
反対に、公図だけを現地に重ね合わせて境界を判断することも適切ではありません。
特に古い公図については、土地の位置関係や形状を確認する資料として重要ではあるものの、必ずしも現地復元性を備えているわけではありません。
裁判例でも、旧公図は土地の配列や形状などの定性的情報について参考になる一方、距離や面積などの定量的精度が低い場合があることが指摘されています。
したがって、
「公図ではこう見える」
「昔からこの塀がある」
「境界杭がここにある」
という一つの事情だけで判断するのではなく、複数の資料から境界を検証することが重要です。
■塀の「地上部分」だけ確認してはいけない
越境調査で見落とされやすいのが、塀の基礎部分です。
例えば地上のブロック部分は境界線の内側に収まっていても、その下にあるコンクリート基礎が境界線を越えているケースがあります。
つまり、
地上越境はないが、地中越境がある
という状態です。
逆に、基礎は隣地内に収まっているものの、経年劣化によって塀が傾き、上部だけがこちらの土地の上空へ入り込んでいる場合もあります。
民法では、土地所有権は法令の制限内においてその土地の上下に及ぶとされています。
したがって越境を確認するときは、平面的な位置だけでなく、
・塀本体
・笠木
・フェンス
・基礎
・擁壁
・雨樋
・屋根、庇
なども含めて立体的に確認する必要があります。
■その塀は誰の所有物なのか
越境していることが確認できたとしても、次に確認しなければならないのが「塀の所有者」です。
塀が完全に隣地内からこちら側へ越境している場合には、比較的判断しやすいでしょう。
しかし、境界線上に設置された古いブロック塀では所有者が分からないことがあります。
民法229条では、境界線上に設けられた境界標、囲障、障壁、溝などについて、相隣者の共有に属するものと推定する規定があります。
あくまで「推定」ですので、過去の施工資料、契約書、領収書、当事者間の合意などによって単独所有であることが確認できれば結論は変わります。
したがって、境界線上の塀を一方の所有者が勝手に「自分の塀」と判断して撤去することは避けるべきです。
実際の裁判例でも、境界上の塀について共有物と認定され、隣地所有者の合意なく工事することが認められなかった事例があります。
■越境が判明しても勝手に撤去してはいけない
自分の土地へ隣地所有の塀が入っているからといって、自分で切断したり撤去したりすることは適切ではありません。
塀そのものは隣地所有者の所有物である可能性があるためです。
基本的な順番は、
1.境界位置を確認する
2.越境状況を測量する
3.塀の所有者を確認する
4.隣地所有者へ説明する
5.解消方法について協議する
となります。
越境問題では、最初から「撤去してください」と要求するより、
「今回測量したところ、この部分が境界線を越えていることが確認されました」
という客観的な事実から協議を始めることが重要です。
■最も明確なのは「越境を解消する」こと
売却前であれば、可能な限り越境を解消しておくことが理想です。
例えば隣地所有者のブロック塀がこちら側へ越境しているのであれば、
・塀を撤去する
・境界線内に造り直す
・越境している基礎を撤去する
などによって物理的に越境状態を解消します。
越境が完全に解消されれば、買主へ問題を引き継ぐ必要がなくなるため、不動産売買としては最も分かりやすい状態になります。
ただし、現実には容易に撤去できないケースも少なくありません。
■すぐ撤去できない場合は「越境確認書」を取り交わす
例えば、
「まだ使える塀を売却のためだけに造り直すのは難しい」
「隣地所有者に費用負担する余裕がない」
「建物や擁壁と一体化しており簡単には撤去できない」
といった事情があります。
このような場合に実務上用いられるのが、
越境に関する確認書、覚書
です。
一般的には、次のような事項を確認します。
・どの物が越境しているのか
・越境位置と範囲
・越境物の所有者
・越境している土地が誰の所有地であるか
・現状について双方が認識していること
・建替え、改修、撤去時に越境を解消すること
・撤去費用を誰が負担するのか
・修繕時の敷地使用方法
・土地建物を売却した場合の取扱い
・相続や売買時に後継所有者へ内容を承継すること
特に重要なのが、
「将来撤去する」ではなく、「いつ越境を解消するのか」を具体化すること
です。
例えば、
「本件塀を再築、改築または撤去する際には、越境部分を解消し、境界線内に設置する」
などの条件を明確にします。
■「覚書があるから将来の所有者にも当然に効く」とは限らない
ここは不動産実務上、非常に重要なポイントです。
現在の土地所有者同士が締結した越境確認書は、基本的には当事者間の合意です。
土地が第三者へ売却されたからといって、あらゆる内容が当然に新しい所有者へ物権的に承継されるとは限りません。
そのため実務では、
「土地建物を第三者へ譲渡するときは、本確認書の内容を譲受人へ説明し、承継させるものとする」
といった承継条項を設けます。
さらに売買契約時には、
・重要事項説明書
・売買契約書の特約
・物件状況等報告書
・越境確認書
を整合させ、買主が越境状態を明確に認識したうえで取得する形にしておくことが重要です。
■長期間の越境では「取得時効」にも注意
古い越境では、取得時効について検討が必要になる場合があります。
民法162条では、所有の意思をもって平穏かつ公然と他人の物を一定期間占有した場合について取得時効が規定されています。
原則は20年間。
占有開始時に善意かつ無過失の場合には10年間です。
例えば、隣地所有者が境界位置を誤認したまま、越境部分を自分の土地であると考えて長期間使用している場合、取得時効が争点となる可能性があります。
実際に最高裁判例でも、隣接地の一部を占有したケースについて土地所有権の取得時効が争われています。
ただし、
「20年以上塀がある=自動的に隣地所有者の土地になる」
という意味ではありません。
占有開始時期、所有の意思、占有状況、善意・無過失、時効の援用など複数の要件を確認する必要があります。
越境確認書において相手方がこちら側の土地所有権を明確に認めることは、後日の紛争防止という意味でも非常に重要です。
長期間の越境や土地所有権そのものに争いがある場合には、土地家屋調査士だけではなく弁護士への相談も検討します。
■売却時には越境を買主へ説明する
隣地からの越境が存在したまま土地を売却する場合、買主への説明は重要です。
国土交通省が公表している不動産取引関係資料でも、境界に関する取り決めや隣地との紛争、共有塀、屋根・庇・フェンス・塀・樹木などの越境について確認する考え方が示されています。
不動産適正取引推進機構にも、越境物の説明不足や、隣地境界塀の基礎部分の越境が問題となった多数の紛争事例が掲載されています。
したがって実務では、
「隣地所有のブロック塀の一部が本物件へ最大約○cm越境しています」
だけではなく、
「越境箇所は確定測量図記載のA点~B点間です」
「売主と隣地所有者との間で令和○年○月○日付越境確認書を締結しています」
「塀を再築・改築・撤去する際には越境を解消する旨が確認されています」
といったところまで具体的に説明します。
■越境がある土地は売却できないのか
越境が存在しているからといって、直ちに売却できないわけではありません。
実際の不動産取引でも、
越境あり+越境確認書あり+買主了承
という条件で取引されることはあります。
ただし、越境の内容によって影響は大きく異なります。
例えば敷地の端にあるブロック塀が数センチ越境しているケースと、建物本体や擁壁が大きく越境しているケースでは意味が全く違います。
特に、
・建築予定建物に干渉する
・有効宅地面積に影響する
・建築確認に影響する
・擁壁の安全性と関係する
・将来の建替えが困難になる
・隣地と既に紛争になっている
場合には慎重な対応が必要です。
越境量だけではなく、
その越境によって土地利用にどの程度影響があるか
まで確認することが重要です。
■隣地所有者が越境を認めない場合
測量によって越境が確認されても、隣地所有者が、
「そこは自分の土地だ」
「昔からこの塀が境界だ」
と主張する場合があります。
この場合、単なる越境問題ではなく境界紛争へ発展します。
まずは、
・過去の測量図
・地積測量図
・境界確認書
・公図、地図
・道路境界資料
・境界標
・過去の土地利用状況
などを確認します。
当事者間で解決できない場合には、土地家屋調査士会のADRや法務局の筆界特定制度を利用する方法があります。
筆界特定制度は、土地所有者等の申請に基づき、筆界特定登記官が専門家である筆界調査委員の意見などを踏まえて本来の筆界を特定する制度です。
ただし非常に重要なのが、
筆界特定制度は「所有権界」を確定する制度ではない
という点です。
所有権そのものに争いがある場合には、境界確定訴訟、所有権確認訴訟、妨害排除請求など、別の法的手続が必要になる場合があります。
■不動産売却前なら「確定測量」と「越境調査」を同時に行う
土地を売却するときには、単に面積を測るだけでは不十分です。
確定測量を行うのであれば、
・境界標の有無
・ブロック塀
・フェンス
・擁壁
・建物外壁
・屋根、庇
・雨樋
・樹木
・給排水管
・地中基礎
などについても確認しておくことをおすすめします。
特に注意したいのは、
「こちらから隣地への越境」と「隣地からこちらへの越境」の両方を確認すること
です。
売却直前になって初めて越境が発覚すると、
測量
↓
隣地説明
↓
覚書作成
↓
署名押印依頼
↓
契約条件調整
という工程が追加され、売買スケジュールに影響することがあります。
そのため土地売却では、できるだけ早い段階で境界・越境調査を進めることが重要です。
■よくあるご質問
Q.隣地の塀が1cmだけ入っています。放置しても大丈夫ですか?
越境量が小さいから問題がないとは一概にはいえません。
土地の利用状況や将来の建替え、取得時効、売却時の買主への説明などを考慮し、少なくとも越境状態を明確にしておくことをおすすめします。
Q.昔からある塀なので、その塀が境界ではないのですか?
必ずしもそうではありません。
塀は境界の目安にはなりますが、塀の位置と筆界が一致しているとは限りません。
測量資料や境界標などを確認する必要があります。
Q.隣地所有者が「自分の塀ではない」と言っています。
境界線上にある古い塀では所有者が分からないことがあります。
民法上、境界線上に設けられた囲障等について共有が推定される場合もあるため、過去の施工経緯なども含めて確認します。
Q.越境していても現状のまま売却できますか?
可能な場合があります。
ただし越境内容、買主の利用目的、越境確認書の有無などによって判断が変わります。
売買契約前に買主へ状況を正確に説明しておくことが重要です。
Q.隣地所有者が越境確認書に署名してくれません。
署名を強制することはできません。
まずは境界資料や測量結果をもとに協議し、それでも解決しない場合には土地家屋調査士、弁護士、筆界特定制度、ADR等の利用を検討します。
■まとめ
隣地の塀が自分の土地へ越境していることが判明した場合、重要なのは単に「撤去する・しない」を決めることではありません。
まず、
①境界を確認する
②越境箇所を測量する
③塀の所有者を確認する
④取得時効等の問題がないか確認する
⑤撤去または越境確認書で整理する
⑥売却時には買主へ正確に説明する
という順番で整理します。
特に土地売却では、越境そのものよりも、
「越境について何も整理されていない」
状態の方が取引上大きな問題になります。
数センチ程度のブロック塀の越境でも、買主が住宅を建築するとき、将来塀を造り直すとき、あるいは次に土地を売却するときまで問題が引き継がれる可能性があります。
境界・越境問題については、「昔からこうだったから大丈夫」と考えるのではなく、測量資料と現地を照合し、必要に応じて隣地所有者との書面を整備したうえで売却手続きを進めることが重要です。
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【本ブログ監修者】

株式会社cocoro不動産 代表取締役
柴田祐介(しばた ゆうすけ) 1981年生まれ。
大手不動産会社にて、八王子・町田・新百合ヶ丘など多摩地区を中心に約17年間、不動産売買仲介業務に従事。
【保有資格】宅地建物取引士/二級建築士/2級FP技能士/秘書検定2級/既存住宅状況調査技術者/相続アドバイザー2級