隣地との境界トラブル
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土地や戸建てを所有していると、隣地との間で「境界」をめぐる問題が発生することがあります。
「昔からこのブロック塀が境界だと思っていた」
「境界標が見当たらない」
「隣のフェンスがこちらに入っている気がする」
「測量したところ、今まで認識していた境界と位置が違った」
「隣地所有者が境界確認に応じてくれない」
このようなケースは、決して珍しいものではありません。
特に不動産を売却するときには、普段は表面化していなかった境界問題が、測量や現地調査をきっかけとして初めて判明することがあります。
境界問題は、不動産の面積だけの問題ではありません。
建物の建替え、塀や擁壁の位置、越境物、将来の維持管理、住宅ローン、売却条件などにも関係してくるため、不動産取引では非常に重要な確認事項の一つです。
今回は、不動産売却の実務という視点から「隣地との境界トラブル」について詳しく解説します。
1.そもそも「境界」とは何なのか
一般的には、
「この塀からこちら側が自分の土地」
というように土地の境目を「境界」と呼びます。
しかし、専門的には境界には大きく、
「筆界」
「所有権界」
という考え方があります。
この違いは非常に重要です。
2.「筆界」と「所有権界」は同じとは限らない
筆界とは
筆界とは、土地が登記された際に、その土地と隣の土地を区画するものとして定められた線です。
法務省も、筆界について「土地が登記された際にその土地の範囲を区画するものとして定められた線」と説明しています。
筆界は、現在の所有者同士が、
「今日からここを境界にしましょう」
と合意しただけで自由に動かせるものではありません。
参考:法務省「筆界特定制度」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji104.html
所有権界とは
一方、所有権界とは、
「実際に誰の所有権がどこまで及んでいるのか」
という権利上の境界です。
通常は筆界と所有権界が一致していることが多いのですが、長い年月の間に土地の一部を売買したり、交換したり、時効取得などの問題が生じたりすると、両者が一致していない可能性もあります。
したがって、
「塀がある場所=必ず筆界」
とは限りません。
3.ブロック塀やフェンスを境界だと思い込まないこと
境界トラブルで非常に多いのが、
「この塀が境界でしょう」
という認識です。
しかし、ブロック塀やフェンスは必ずしも境界線上に造られているとは限りません。
例えば、
・自分の敷地内に全部入れて造った塀
・隣地所有者の敷地内に造られた塀
・境界線の中心に造られた塀
・古い所有者同士の判断で境界とは違う位置に造られた塀
など、さまざまなケースがあります。
特に築年数の古い住宅地では、現在の所有者が土地を購入する以前から塀が存在しているケースも少なくありません。
「何十年もこの状態だったから、ここが境界だろう」
というだけでは、正確な境界の根拠にはならない場合があります。
4.境界標があっても、それだけで判断しない
現地に、
・コンクリート杭
・金属標
・金属プレート
・プラスチック杭
・鋲
などが設置されている場合があります。
これらはいわゆる「境界標」です。
境界標は土地の境界を現地で確認するうえで非常に重要です。
法務省も、土地の境界を明確にするため、境界標を設置しておくことが境界トラブル防止につながると案内しています。
参考:法務省「土地の境界トラブル防止」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03.html
ただし、
「杭があるから絶対にそこが境界」
と即断することも危険です。
過去の工事で動いてしまったり、何らかの理由で抜かれて再設置されていたりする可能性もゼロではありません。
そのため測量では、
・境界標
・法務局備付けの地図
・公図
・地積測量図
・過去の確定測量図
・道路境界資料
・周辺土地の測量資料
・現地の構造物
・隣接所有者の認識
などを総合的に確認していきます。
5.境界標が見つからない土地は売却できない?
境界標がないからといって、その土地を売却できないわけではありません。
境界が不明確な土地であっても、売買契約そのものを締結することは可能です。
しかし、実際の不動産取引では、
「売主が引渡しまでに境界を明示する」
という条件で売買することがあります。
特に土地や古家付き土地では、買主が購入後に建物を建築する可能性があるため、境界位置は非常に重要になります。
そのため売却開始前、あるいは売買契約前の段階で境界の状態を確認しておくことが重要です。
6.「確定測量」を行うケース
土地を売却するときに行われることがあるのが「確定測量」です。
一般的には土地家屋調査士などが、
・法務局資料
・地積測量図
・公図
・道路資料
・過去の測量資料
・現地の境界標
などを調査し、現地を測量します。
そのうえで隣接土地所有者等と境界を確認し、境界確認書などを取り交わしていく方法が一般的です。
ただし、
すべての不動産売却で確定測量が法律上必須というわけではありません。
土地の状況、売買契約の条件、買主の利用目的などによって判断する必要があります。
7.境界トラブルで多い「越境」
境界と密接に関係するのが「越境」です。
例えば、
建物関係
・屋根
・軒
・雨樋
・庇
・基礎
・配管
外構関係
・ブロック塀
・フェンス
・擁壁
・門扉
樹木関係
・枝
・根
などが境界線を越えているケースです。
一見すると数センチ程度の小さな問題でも、不動産売却では重要になる場合があります。
8.越境しているからといって、すぐ撤去できるとは限らない
境界を越えているものが見つかった場合、
「越境しているのだから撤去してください」
と単純に処理できるとは限りません。
例えば隣地建物の屋根や雨樋が越境している場合、撤去するためには建物そのものの改修が必要になることがあります。
築年数の古い住宅では、
「何十年間もこの状態だった」
というケースもあります。
そのため実務では、直ちに撤去することが難しい場合、
「将来建替えや大規模改修をするときには越境を解消する」
といった内容の覚書を取り交わす方法が検討されることもあります。
大切なのは、越境の事実を曖昧なまま買主へ引き継がないことです。
9.擁壁の境界は特に注意が必要
八王子市のように高低差のある住宅地が多い地域では、擁壁と境界の関係も重要です。
例えば、
・擁壁全部が自分の土地にある
・擁壁全部が隣地にある
・境界線上に擁壁がある
・下側土地の擁壁なのか上側土地の擁壁なのか不明
・古い図面と現況が一致していない
というケースがあります。
擁壁は単なる境界工作物ではありません。
将来補修や造り替えが必要になった場合、数百万円単位の工事になる可能性もあります。
そのため、
「境界がどこにあるのか」
だけではなく、
「擁壁がどちらの土地に存在しているのか」
まで確認することが重要です。
10.測量すると登記面積と実際の面積が違うことがある
土地を測量すると、
登記簿面積と実際に測量した面積が一致しない場合があります。
例えば登記簿では、
100.00㎡
となっていても、測量すると、
99.20㎡
あるいは
101.30㎡
となるケースがあります。
特に古い時代に登記された土地では珍しいことではありません。
ここで重要なのは、
「面積が違う=隣地が土地を取っている」
と短絡的に判断しないことです。
測量精度、測量方法、過去の分筆、道路境界など、さまざまな要因を確認する必要があります。
11.「公図」と現地が合わないケースもある
法務局には土地の位置関係を確認するための地図や公図などが備え付けられています。
しかし、公図のすべてが現代の高精度な測量によって作成されたものとは限りません。
地域によっては古い資料を基礎としているものもあります。
そのため、
公図だけを見て境界位置を数センチ単位で判断することはできない場合があります。
地積測量図が存在するか、いつ作成されたのか、どのような測量成果なのかも確認する必要があります。
12.隣地所有者が境界確認に応じてくれない場合
売却のため測量を行おうとしたところ、
「隣の人が立会いに来てくれない」
というケースがあります。
理由はさまざまです。
・隣人関係が悪い
・境界について以前から意見が対立している
・所有者が遠方に住んでいる
・相続登記がされていない
・共有者が多数いる
・所有者と連絡が取れない
・境界確認に協力する必要性を感じていない
などです。
この場合も、
「署名してくれないなら終わり」
とは限りません。
まず土地家屋調査士などが資料や現地を調査し、隣接土地所有者へ境界確認の趣旨を説明していくことになります。
13.感情的にならないことが最も重要
境界問題で非常に重要なのが、隣人とのコミュニケーションです。
境界確認は、
「こちらの土地を増やすための話」
ではありません。
本来は、
「お互いの土地の境界を確認する作業」
です。
しかし、
「あなたの塀がこちらに入っています」
「この杭は間違っています」
などと最初から断定してしまうと、隣地所有者が感情的になり、その後の話し合いが困難になることがあります。
まず測量資料や登記資料など客観的な資料を確認することが重要です。
14.筆界について意見が一致しない場合は「筆界特定制度」という方法もある
どうしても隣地所有者との間で筆界について意見が一致しない場合、
「筆界特定制度」
を利用できる可能性があります。
筆界特定制度は、土地所有者等からの申請に基づき、筆界特定登記官が、土地家屋調査士などの外部専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて筆界の位置を特定する制度です。
重要なのは、
新しく境界を作る制度ではない
ということです。
もともと存在していた筆界が現地のどこにあるのかを、資料、現地調査、測量などから判断する制度です。
法務省では、隣接所有者と筆界の認識が異なる場合などの解決手段として案内しています。
参考:法務省「筆界特定制度」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji104.html
15.筆界特定制度でも「所有権」の問題まで解決するとは限らない
ここは非常に重要です。
筆界特定制度で判断されるのは、
「筆界」
です。
一方で、
「この土地部分は自分が所有している」
という所有権そのものの争いについて、すべて筆界特定制度で解決できるわけではありません。
法務省も、筆界特定制度は土地の所有権がどこまであるのかを特定する制度ではないとしています。
つまり、
筆界問題なのか、所有権問題なのか
を整理する必要があります。
所有権そのものについて争いがある場合には、弁護士への相談や訴訟等が必要になる可能性があります。
16.境界トラブルがある土地でも売却できる?
境界問題があるからといって、必ず売却できないわけではありません。
重要なのは、
問題の内容を明確にしたうえで売却すること
です。
例えば、
・境界標が一部ない
・隣地所有者と境界確認ができていない
・越境物がある
・確定測量が未了
・筆界について隣地と認識が異なる
などの事情がある場合、それを把握したうえで買主へ説明し、どのような条件で引き渡すのかを売買契約で整理します。
問題を隠して売却することは避けなければなりません。
17.「現況のまま売る」という方法もある
土地によっては、
確定測量を行わず、現況のまま売却する
という方法が選択されることもあります。
例えば、
・土地価格とのバランス上、測量費用をかけない
・買主が不動産会社等で現況を理解して購入する
・隣地関係が複雑で短期間では確定測量が難しい
といった場合です。
ただし、この場合は、
「境界非明示」
「公簿売買」
「現況有姿」
などの契約条件をどのように設定するのか、十分に検討する必要があります。
単に、
「境界は分かりません」
だけで済ませるのではなく、
何が確認できていて、何が確認できていないのか
を整理することが重要です。
18.境界問題は売却を始めてからでは遅い場合がある
土地売却でよくあるのが、
買主が決まってから測量を始めるケースです。
もちろんそれでも進められる場合はあります。
しかし、
・境界標がない
・隣地所有者と連絡が取れない
・相続登記されていない
・道路境界の確認が必要
・越境が判明した
・古い測量図と現況が一致しない
といった問題が見つかると、予定していた引渡日に間に合わない可能性があります。
土地を売却する場合は、販売開始前の段階で、
境界標があるかどうかだけでも現地確認しておく
ことをおすすめします。
19.昔の「境界確認書」が残っている場合は大切に保管する
土地を購入したときや過去に測量したときの、
・確定測量図
・境界確認書
・筆界確認書
・道路境界確認書
・越境に関する覚書
などが残っている場合は、非常に重要な資料になります。
古い書類だからといって処分しないようにしましょう。
特に隣接土地所有者の署名・押印が入った境界確認書は、将来売却するときに重要になる可能性があります。
20.境界確認書があっても現地の境界標を確認する
境界確認書がある場合でも、
「書類があるから問題ない」
と判断するのではなく、現地確認は必要です。
例えば、
測量当時に存在していた境界杭が、
・道路工事
・外構工事
・ブロック塀工事
・建物解体
・造成工事
などによって失われていることがあります。
書類と現地の両方を確認することが重要です。
21.建物を解体する前にも境界確認を
古家を解体して土地として売却する場合も注意が必要です。
解体工事では、
・ブロック塀
・フェンス
・土間コンクリート
・樹木
・擁壁
などを撤去することがあります。
その際、境界標まで誤って撤去してしまうことがあります。
したがって解体前には、
境界標の位置を写真に残しておく
ことも大切です。
必要に応じて土地家屋調査士に確認してもらってから解体工事を行う方法もあります。
22.境界トラブルが売却価格に影響することもある
買主から見ると、境界問題は将来のリスクになります。
例えば、
・購入後に建替えできる面積が確定しない
・隣地との紛争を引き継ぐ可能性がある
・越境物を撤去できない可能性がある
・擁壁補修時の負担関係が不明
・予定していた建築計画に影響する
という問題が考えられます。
そのため重大な境界問題が未解決のままだと、購入希望者が慎重になったり、価格交渉の材料になったりする可能性があります。
反対に、売却前に境界関係を整理しておけば、買主に安心して検討してもらいやすくなります。
23.八王子市の不動産では「高低差」「擁壁」「古い分譲地」にも注意
八王子市の場合、地域によって土地の成り立ちが大きく異なります。
平坦な市街地だけでなく、
・造成された住宅団地
・高低差の大きい土地
・擁壁がある土地
・旗竿地
・古い住宅地
・昔からの集落
・道路幅員が狭い地域
などがあります。
特に昭和期に造成された住宅地では、建物だけでなく、
擁壁・道路・境界
をセットで確認することが重要です。
見た目では整った住宅地でも、古い測量図しか残っていなかったり、現在の境界標が一部なくなっていたりすることがあります。
24.境界トラブルを防ぐために売却前に確認したいこと
不動産を売却する場合、まず次の点を確認してみてください。
①土地の四隅などに境界標があるか
②過去の測量図が残っているか
③境界確認書が残っているか
④ブロック塀・フェンスがどちらの所有物か
⑤屋根・雨樋・樹木などの越境がないか
⑥擁壁がある場合、その位置と所有関係はどうなっているか
⑦隣接土地の所有者と以前に境界の話をしたことがあるか
⑧過去に境界トラブルがなかったか
これらを整理するだけでも、売却時の問題をかなり早い段階で把握できます。
まとめ|境界は「問題が起きてから」ではなく売却前に確認する
隣地との境界問題は、不動産売却において非常に重要なポイントです。
特に注意したいのは、
「昔からこうだったから大丈夫」
「塀があるからここが境界」
「登記簿面積が100㎡だから実際にも100㎡ある」
と決めつけないことです。
土地の境界を確認する場合には、
境界標、地積測量図、公図、過去の測量資料、道路資料、現況などを総合的に確認する必要があります。
また、
筆界と所有権界は法律上異なる概念
であり、境界問題が複雑な場合には土地家屋調査士・弁護士・法務局など、それぞれの専門家の役割を理解したうえで対応することが重要です。
不動産を売却する場合は、買主が決まってから慌てて確認するよりも、
「境界標はあるか」
「測量図は残っているか」
「越境物はないか」
を売却開始前に確認しておくことをおすすめします。
境界問題は、早めに把握すれば対処方法を検討できます。
反対に、売買契約後や決済直前になって初めて問題が判明すると、引渡し時期や売買条件そのものに影響する可能性があります。
八王子市で土地・戸建ての売却を検討されている場合には、価格査定だけでなく、境界・道路・擁壁・越境・測量資料まで確認したうえで売却方法を検討することが大切です。
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〖本ブログ監修者〗

株式会社cocoro不動産 代表取締役
★柴田祐介(しばた ゆうすけ)1981年生まれ。
大手不動産会社にて、八王子・町田・新百合ヶ丘など多摩地区を中心に約17年間、不動産売買仲介業務に従事。
建築・デザインについても専門学校で学び、不動産取引だけでなく建物・土地の双方から不動産を確認しています。
〖保有資格〗
宅地建物取引士、二級建築士、2級FP技能士、相続アドバイザー二級、秘書検定2級、既存住宅状況調査技術者