私道の通行掘削承諾書
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不動産の前面道路が私道である場合、「建物が建っているから、当然に通行や掘削ができる」とは限りません。
日常的に人や車が通行していたとしても、建替え工事の車両通行、上下水道管やガス管の新設・交換、道路舗装の掘削などについて、私道所有者との合意が明確になっていないことがあります。
このような将来のトラブルを防ぐために作成されるのが「私道の通行掘削承諾書」です。
今回は、通行掘削承諾書の意味、必要となる場面、確認すべき条項、不動産売買における注意点について詳しく解説します。
私道の通行掘削承諾書とは
私道の通行掘削承諾書とは、私道の所有者が、私道に接する土地の所有者などに対して、私道の通行やライフライン工事に伴う掘削を承諾する書面です。
一般的には、次のような行為が対象となります。
・徒歩、自転車、自動車による通行
・来訪者、宅配業者、介護車両などの通行
・建築工事、解体工事、リフォーム工事の車両通行
・水道管、下水道管、ガス管の新設、交換、撤去
・電気設備、通信設備などの設置や修繕
ただし、「通行の承諾」と「掘削の承諾」は別の問題です。
日常生活上の通行が認められていても、道路を掘削して配管を新設できるとは限りません。
そのため、不動産取引では、通行と掘削の双方について権利関係を確認する必要があります。
建築基準法上の道路であっても承諾が不要とは限らない
私道には、建築基準法第42条第1項第5号の位置指定道路や、同条第2項のいわゆる2項道路などがあります。
これらは建築基準法上の道路ですが、「建築基準法上の道路であること」と「民事上の通行・掘削権限があること」は同じではありません。
建築基準法は、建物を建築するための接道条件などを定める法律です。
一方、私道を誰がどの範囲で使用できるかは、所有権、共有持分、地役権、契約、過去の利用状況などによって判断されます。
国土交通省の資料でも、建築基準法上の私道について、所有者から通行や掘削を認められず、建築をめぐる紛争が発生する問題が指摘されています。
私道の所有形態によって確認方法が異なる
私道の権利関係は、登記上の所有形態によって大きく異なります。
1.私道全体を第三者が所有している場合
対象物件の所有者が私道持分を持っておらず、近隣住民や分譲会社などが私道全体を所有しているケースです。
この場合は、所有者との間に通行権、地役権、賃貸借契約、使用承諾などが存在するかを確認します。
単に長年通っていたという事実だけでは、将来の建替えや掘削まで確実に認められるとは限りません。
2.私道全体を複数人で共有している場合
私道全体について、各住宅の所有者が数分の1ずつ共有持分を持っている形です。
共有持分があれば、共有物である私道を使用できる可能性は高くなります。
ただし、自己の持分を超える使用や、私道の形状・機能に影響する工事については、工事内容や共有物の管理ルールを個別に検討しなければなりません。
3.私道を区画ごとに分筆して所有している場合
道路状の土地が複数の筆に分かれ、それぞれ異なる人が所有している形です。
対象地から公道までの間に複数の所有者がいる場合、必要となる通行・掘削範囲に応じて、複数人から承諾を取得しなければならないことがあります。
民法改正によりライフラインの設備設置権が明文化された
2023年4月1日に施行された改正民法では、電気、ガス、水道水などの継続的な供給を受けるために必要な場合、一定の要件のもとで、他人の土地に設備を設置し、または他人が所有する設備を使用できることが明文化されました。
民法第213条の2により、他の土地に設備を設置しなければライフラインの供給を受けられない場合には、必要な範囲で設備を設置できる可能性があります。
ただし、自由に掘削してよいという意味ではありません。
設備の設置場所や方法は、他の土地や設備への損害が最も少ないものを選ぶ必要があります。
また、原則として事前の通知が必要となり、土地所有者に損害が生じた場合には償金や損害賠償の問題も発生します。
相手方が工事を拒否している場合に、実力で工事を強行することもできません。
法務省も、設備設置権が認められる場合であっても自力執行は原則として禁止され、拒否された場合には妨害禁止などを求める裁判手続が必要となり得ることを示しています。
したがって、民法上の権利が認められる可能性があることと、不動産売買において承諾書を取得する必要性は、分けて考えるべきです。
法律上の権利があっても承諾書を取得する理由
裁判によって通行権や掘削権が認められる可能性があったとしても、実際に工事を行うたびに私道所有者と争う状態では、安心して不動産を利用できません。
買主や住宅ローンを扱う金融機関、建築会社にとって重要なのは、「裁判をすれば認められるかもしれない」という状態ではなく、必要な通行や工事を平穏に行える状態です。
承諾書には、紛争を事前に防止し、土地の利用可能性を明確にする役割があります。
不動産適正取引推進機構も、私道の通行料や高額な掘削承諾料をめぐる相談が多いことを指摘し、不要な紛争を避けるためには、売買契約前に私道所有者から承諾書を取得しておくことが重要としています。
通行掘削承諾書に記載したい重要事項
通行掘削承諾書には法律で定められた統一書式がありません。
そのため、表題が「通行掘削承諾書」となっていても、必要な内容が記載されているとは限りません。
対象となる土地の表示
承諾を受ける宅地と、通行・掘削の対象となる私道について、所在、地番、所有者を正確に記載します。
現地の道路部分と登記上の土地が一致しているか、公図や測量図も確認します。
通行できる者と車両の範囲
所有者本人だけでなく、家族、同居人、来訪者、承継人、工事業者なども通行できる内容にします。
徒歩通行だけでなく、自転車、普通自動車、引っ越し車両、緊急車両、建築工事車両などの取扱いも重要です。
掘削できる工事の範囲
上下水道、ガス、電気、通信設備などについて、新設だけでなく、修理、交換、撤去、維持管理のための掘削も含めます。
「水道管を新設する場合のみ」など限定的な内容では、将来の下水道工事や老朽管の交換に対応できないことがあります。
工事前の通知
私道所有者や近隣居住者への連絡時期、工事内容、施工期間、施工会社などを、事前に通知する旨を定めます。
承諾書があっても、無断で突然工事を開始すれば近隣トラブルの原因になります。
原状回復と損害賠償
掘削後は舗装などを原状に復し、工事によって損害が発生した場合は施工者または工事を行った者が責任を負うことを明記します。
通行料・承諾料の有無
通行や掘削を無償とするのか、一定の費用を支払うのかを明確にします。
「現在は請求しない」という表現では、将来請求される余地が残る可能性があるため、継続的に無償とするのかを確認します。
所有者が変わった場合の承継
対象土地や私道が売却・相続された場合にも、承諾内容を承継する旨を記載します。
ただし、承諾書に承継条項を入れたからといって、あらゆる将来の取得者に当然に対抗できるとは限りません。
権利をより確実にする必要がある場合には、通行地役権などを設定し、登記する方法も検討します。
古い承諾書がある場合の注意点
売却物件について、以前取得した通行掘削承諾書が保管されていることがあります。
この場合は、単に承諾書が存在するかだけでなく、誰に対して承諾しているのかを確認します。
「旧所有者本人に対して通行・掘削を承諾する」という内容では、新しい買主が当然に承諾の効果を受けられるとは限りません。
旧所有者宛ての承諾書をめぐり、買主が契約解除を主張した裁判例では、売買契約の特約の文言や重要事項説明時の添付状況から、売主の交付義務は履行されたと判断されました。
一方で、その承諾書自体は、旧所有者から譲渡を受けた者の通行・掘削まで承諾する文言にはなっていないことも裁判所から指摘されています。
実務上は、買主および将来の承継人にも承諾の効果が及ぶことを明記した書面を取得することが望ましいといえます。
私道所有者全員から承諾を取得する必要があるのか
私道が共有の場合、工事の内容や私道の所有形態によっては、民法上、必ずしも共有者全員の同意が必要とは限りません。
共有物の保存行為、管理行為、変更行為のどれに該当するかによって必要となる同意の範囲が異なるためです。
また、改正民法による設備設置権が認められる場合もあります。
しかし、不動産売買の安全性を確保するという観点からは、登記名義人全員から承諾を取得できるかを確認することが基本です。
一部の共有者からしか承諾を取得できない場合には、その工事がどのような法的性質を持つのか、残る共有者の同意が必要かを、弁護士などの専門家に確認する必要があります。
売却前に承諾書を取得する際の注意点
私道の承諾書は、買主が決まってから取得しようとしても、すぐに取得できるとは限りません。
私道所有者が亡くなって相続登記が行われていない場合や、住所が変更されて連絡が取れない場合もあります。
承諾料を要求されたり、過去の近隣関係を理由に承諾を拒否されたりすることもあります。
そのため、売却を開始する前に、次の事項を調査することが重要です。
・私道の地番と所有者
・共有者の人数と持分
・所有者の現住所
・過去の通行掘削承諾書の有無
・承諾書の宛名と承継条項
・既存配管の位置、所有者、口径
・私道内の工事履歴
・通行料や維持管理費の有無
売買契約において売主が承諾書を取得することを約束する場合は、取得期限、取得できなかった場合の取扱い、契約解除の条件などを明確に定める必要があります。
売主が通行・掘削承諾書を取得する特約を履行できず、買主による契約解除と違約金請求が認められた裁判例もあります。
承諾書が取得できない物件は売却できないのか
承諾書が取得できないからといって、直ちに売却できないとは限りません。
私道持分、地役権、囲繞地通行権、過去の利用状況、改正民法による設備設置権など、承諾書以外の権利が存在する可能性があります。
ただし、権利関係が不明確な状態では、買主が限定されたり、住宅ローンの審査や建築計画に影響したりする可能性があります。
売却価格にも影響するため、「承諾書がない」という事実だけで判断せず、なぜ承諾書がないのか、代わりとなる権利が存在するのかを調査することが重要です。
よくあるご質問
Q.私道持分があれば、通行掘削承諾書は不要ですか?
私道持分があれば私道を使用する権原は認められやすくなりますが、工事内容によっては他の共有者との調整が必要です。
将来のトラブルを防ぐため、通行や掘削に関する合意内容を確認しておくことが望ましいでしょう。
Q.建物がすでに建っていれば、建替えも問題ありませんか?
既存建物が建っていることと、建替え工事の車両通行や新しい配管工事が認められることは別の問題です。
建築基準法上の接道条件、私道の通行権、掘削権、工事車両の通行条件をそれぞれ確認する必要があります。
Q.認印で作成された承諾書でも有効ですか?
契約は必ずしも実印でなければ成立しないわけではありません。
ただし、本人が作成したことを後から確認できるよう、署名押印、本人確認資料、登記事項証明書などを確認することが重要です。
Q.私道所有者から承諾料を請求された場合は支払う必要がありますか?
承諾料を当然に支払わなければならないとは限りません。
私道持分、地役権、設備設置権、過去の利用状況、実際に生じる損害などを確認したうえで判断します。
高額な承諾料を請求された場合は、その場で合意せず、弁護士などに相談することが適切です。
Q.承諾書は一度取得すれば永久に有効ですか?
承諾書の文言によって異なります。
対象者、対象となる工事、期間、相続・売買時の承継について記載がなければ、将来そのまま利用できない可能性があります。
特に古い承諾書については、現在の所有者や買主に効果が及ぶ内容かを確認する必要があります。
まとめ
私道の通行掘削承諾書は、単に道路を通るためだけの書類ではありません。
日常生活上の通行、建築・解体工事の車両通行、上下水道・ガスなどのライフライン工事を、将来にわたって円滑に行うための重要な書類です。
民法改正によって一定の設備設置権が明文化されましたが、承諾書を取得せずに工事を強行できるわけではありません。
不動産売買では、私道の所有形態、共有者、既存の権利、承諾書の宛名、承継条項、無償利用の範囲などを総合的に確認する必要があります。
私道に面した不動産を売却するときは、売却活動を始める前に権利関係を調査し、必要に応じて承諾書の取得を進めることが、取引を安全に進めるための重要な準備となります。
なお、通行権や掘削権の有無は、私道の所有状況や過去の経緯によって結論が異なります。
具体的な紛争や権利判断については、弁護士などの専門家への確認が必要です。
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監修者

株式会社cocoro不動産 代表取締役 柴田祐介
1981年生。
大手不動産会社にて、多摩地区を中心に約17年間、不動産売買業務に従事。
宅地建物取引士|二級建築士|2級FP技能士|相続アドバイザー2級|既存住宅状況調査技術者