相続税の取得費加算の特例とは?相続した不動産を売却するときの税負担を専門的に解説
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相続によって取得した土地や建物を売却すると、「相続税を払ったうえに、売却時にも譲渡所得税がかかるのか」と疑問に感じる方も少なくありません。
そこで重要になるのが、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」、一般に「相続税の取得費加算の特例」と呼ばれる制度です。
一定の要件を満たして相続した不動産を売却した場合、納付した相続税の一部を、その不動産の「取得費」に加算できます。
取得費が増えれば譲渡所得が小さくなるため、結果として売却時の所得税・住民税を軽減できる可能性があります。
特に、相続税を納めた後、比較的早い時期に不動産を売却する場合には必ず確認しておきたい制度です。
■そもそも不動産売却時の「取得費」とは?
土地や建物を売却して利益が生じた場合、原則として譲渡所得に対して税金が課されます。
基本的な計算式は、
譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)-特別控除
です。
取得費とは、簡単にいえば「その不動産を取得するために要した金額」です。
土地であれば購入代金や購入時の仲介手数料など、建物であれば購入代金・建築代金などから一定の減価償却費相当額を差し引いて計算します。
ここで重要なのが、相続した不動産だからといって、相続税評価額がそのまま取得費になるわけではないという点です。
相続によって取得した土地・建物については、原則として被相続人が取得した際の取得費を相続人が引き継ぎます。
取得時期についても同様で、被相続人の取得時期を引き継いで長期譲渡所得・短期譲渡所得を判定します。
この部分は相続不動産売却で非常に重要なポイントです。
■相続税の取得費加算の特例とは?
取得費加算の特例とは、相続または遺贈によって取得した財産を一定期間内に売却した場合に、その人が負担した相続税のうち、その売却財産に対応する一定額を取得費に加える制度です。
根拠となるのは租税特別措置法第39条です。
例えば、
- 被相続人が購入したときの取得費 2,000万円
- 取得費加算額 600万円
であれば、譲渡所得を計算する際の取得費は、
2,000万円+600万円=2,600万円
として計算できます。
つまり、600万円そのものが税金から控除されるのではなく、譲渡所得を600万円圧縮できるという仕組みです。
国税庁でも、相続または遺贈によって取得した土地・建物・株式などを一定期間内に譲渡した場合、相続税額の一定額を取得費に加算できるとしています。
■取得費加算を利用するための3つの要件
この特例を利用するためには、原則として次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
①相続または遺贈によって財産を取得していること
対象となるのは、相続や遺贈によって取得した土地、建物、株式などです。
単純に親族から購入した不動産などは対象になりません。
②その財産を取得した人に相続税が課税されていること
非常に重要な要件です。
相続によって不動産を取得していても、その相続人自身に相続税が課税されていなければ、原則として取得費加算は利用できません。
例えば、遺産総額が基礎控除以下で相続税そのものが発生していないケースでは、この制度による取得費加算もありません。
③一定期間内に売却すること
期限も重要です。
法律上は、
「相続開始の日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」
に譲渡する必要があります。
相続税の申告期限は原則として、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
そのため通常の相続では、分かりやすく、
「相続開始からおおむね3年10か月以内」
と説明されることが多くなります。
ただし、法律上の期限は単純な「3年10か月」ではなく、相続税の申告期限を基準として判断するため、実際の売却期限は必ず個別に確認する必要があります。
■取得費に加算できる相続税はいくら?
「支払った相続税を全部、売却不動産の取得費にできる」と誤解されることがありますが、そうではありません。
原則として、次の考え方により売却した財産に対応する相続税額を計算します。
取得費加算額
=その相続人の相続税額
× 売却した財産の相続税評価額
÷ 相続税の課税価格の計算の基礎となった財産等の価額
実際の計算では、相続時精算課税適用財産や一定の生前贈与財産なども関係するため、相続税申告書を確認しながら計算する必要があります。
さらに、取得費に加算できる金額には上限があります。
取得費加算額が、その特例を適用する前の譲渡益を超える場合には、その譲渡益相当額までが限度です。
■具体例で考えてみましょう
例えば、相続人Aさんについて、
- 納付した相続税:1,200万円
- 相続税計算上の取得財産等:8,000万円
- 売却する土地の相続税評価額:4,000万円
だったとします。
単純化すると、
1,200万円×4,000万円÷8,000万円=600万円
となり、600万円を土地の取得費に加算できることになります。
売却価格が6,000万円、
被相続人から引き継いだ取得費が2,000万円、
仲介手数料や測量費などの譲渡費用が200万円だった場合、本来の譲渡所得は、
6,000万円-2,000万円-200万円=3,800万円
です。
取得費加算を適用すると、
6,000万円-(2,000万円+600万円)-200万円=3,200万円
となります。
課税対象となる譲渡所得を600万円減らせることになります。
特に取得費加算額が大きいケースでは、最終的な税負担にも大きな差が生じる可能性があります。
■「相続税評価額=取得費」ではない点に注意
相続不動産の相談で特に誤解が多いポイントです。
例えば父親が30年前に1,500万円で購入した土地について、相続時の相続税評価額が4,000万円だったとしても、
4,000万円が売却時の取得費になるわけではありません。
原則として相続人は、父親の取得費を引き継ぎます。
相続税評価額は相続税を計算するための評価額であり、譲渡所得を計算する際の取得費とは別の概念です。
ただし、今回説明している取得費加算の特例によって、相続税の一部を追加的に取得費へ加算できるという関係になります。
■昔の購入価格が分からない場合は特に注意
相続不動産では、
「父が50年前に買った土地なので売買契約書がない」
「祖父の代から所有していて取得価格が分からない」
というケースが珍しくありません。
取得費が分からない場合、税務上は原則として売却価格の5%を「概算取得費」として計算する方法があります。
しかし、売却価格が高額な不動産の場合、取得費を5%としてしまうと非常に大きな譲渡所得が発生する場合があります。
そのため相続不動産を売却するときには、
購入時の売買契約書、領収書、建築請負契約書、住宅ローン関係書類など、被相続人の取得費を証明できる資料をできる限り探すことが重要です。
■所有期間も被相続人から引き継ぐ
「相続して1年後に売ったから短期譲渡になる」と思われることがありますが、必ずしもそうではありません。
相続した土地・建物については、原則として被相続人の取得時期を引き継ぎます。
したがって、父親が30年前に取得した土地を子どもが相続し、その1年後に売却した場合でも、父親の所有期間を引き継いで判定します。
土地・建物の場合、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば、原則として長期譲渡所得となります。
長期譲渡所得の基本税率は所得税15%・住民税5%で、さらに復興特別所得税が加算されます。
■「相続空き家の3,000万円特別控除」との併用はできる?
ここは相続不動産売却で非常に重要です。
一定の要件を満たした被相続人の自宅を売却する場合、
「被相続人の居住用財産(空き家)に係る3,000万円特別控除」
を利用できる場合があります。
しかし、同じ不動産について、
空き家3,000万円特別控除と取得費加算の特例を併用することはできません。
したがって両方の要件を満たす場合には、
「3,000万円控除を利用した方が有利なのか」
「取得費加算を利用した方が有利なのか」
を比較して判断する必要があります。
相続空き家の3,000万円特別控除には、建築時期、利用状況、売却価格、売却期限など複数の要件があるため、単純に「3,000万円控除の方が大きい」と判断することはできません。
■相続した不動産を売却するなら「遺産分割前」から税金を考える
実務上、重要なのはここです。
相続が発生すると、
「誰が自宅を相続するか」
「誰が土地を取得するか」
という遺産分割を先に考えがちですが、その不動産を将来的に売却するのであれば、売却時の税負担まで考えたうえで遺産分割を検討することが重要です。
なぜなら、取得費加算の計算は「実際に不動産を取得して売却する相続人」の相続税額や取得財産の内容などによって変わるからです。
単に相続税だけを見て遺産分割を決めるのではなく、
相続税+将来の譲渡所得税+不動産の売却しやすさ
まで含めて検討することが、相続不動産では重要になります。
■取得費加算は自動的に適用されるわけではない
取得費加算の特例は、要件を満たしていれば税務署が自動的に適用してくれる制度ではありません。
適用を受けるためには確定申告が必要です。
主な提出書類として、
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
- 譲渡所得の内訳書(土地・建物用)
などが必要になります。
相続税申告書の内容も取得費加算額の計算に関係するため、不動産を売却する際には相続税申告書一式を保管しておくことが重要です。
■不動産会社にも相続税申告の有無を伝えておく
相続不動産の売却を不動産会社へ依頼するときには、
「相続税を払っている」
「相続から何年経過している」
「空き家3,000万円控除の対象になる可能性がある」
といった情報を早い段階で共有しておくことをおすすめします。
不動産会社が税額そのものを確定することはできませんが、売却時期や売却方法によって利用できる税制が変わる可能性があるためです。
特に取得費加算には期限があります。
売却期限直前になってから売却活動を開始すると、測量、境界確定、建物解体、相続登記、買主との契約条件調整などに時間がかかり、期限に間に合わなくなる可能性があります。
そのため「いつまでに売れば特例が利用できるか」を確認したうえで、余裕を持って売却スケジュールを組むことが重要です。
■よくある質問(Q&A)
Q1.相続税を払っていなくても取得費加算は利用できますか?
原則として利用できません。
取得費加算は、その相続について相続税が課税されている人が対象となる制度です。
Q2.相続税を払った金額を全部取得費にできますか?
できません。
相続税額のうち、売却した財産に対応する部分を一定の計算式によって算出します。
また、取得費加算額は特例適用前の譲渡益が上限となります。
Q3.売却期限は「相続から3年」ですか?
違います。
原則として、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。
通常の相続税申告期限が10か月であるため、一般的には「相続から約3年10か月」と説明されます。
Q4.相続したばかりの不動産を売ると短期譲渡になりますか?
相続した日だけで判断するわけではありません。
原則として被相続人の取得時期を引き継ぎます。
被相続人が長期間所有していた不動産であれば、相続後すぐに売却しても長期譲渡所得となる可能性があります。
Q5.相続空き家の3,000万円控除と取得費加算は両方使えますか?
同じ不動産については併用できません。
両制度の対象となる場合には、どちらを利用する方が有利か比較する必要があります。
■まとめ|相続税を払って不動産を売却するなら必ず確認したい制度
相続税の取得費加算の特例は、相続税を負担した人が相続財産を一定期間内に売却した場合に、相続税の一部を取得費に加算し、譲渡所得を圧縮できる制度です。
特に相続税評価額の大きな土地を相続したケースでは、取得費加算額も大きくなる可能性があります。
一方で、
- 相続税が課税されていること
- 売却期限があること
- 加算できる相続税額には計算ルールがあること
- 相続空き家3,000万円控除とは併用できないこと
- 確定申告が必要であること
など、注意すべき点も少なくありません。
また、相続した不動産の売却では、取得費加算だけでなく、被相続人の取得費、所有期間、建物の減価償却、空き家特例などを総合的に確認する必要があります。
そのため、相続税を支払った後に不動産を売却する予定がある場合には、売却活動を始める段階から取得費加算の適用期限を確認しておくことが重要です。
税額や特例適用の最終判断については税理士・税務署への確認が必要ですが、不動産の売却価格や売却時期については税金と切り離さずに検討することが、相続不動産を適切に売却するための重要なポイントといえるでしょう。
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〖本ブログ監修者〗

柴田祐介(しばた ゆうすけ)1981年生まれ。
大手不動産会社にて、八王子・町田・新百合ヶ丘など多摩地区を中心に約17年間、不動産売買仲介に従事。
これまで多くの不動産売却・購入・相続不動産の相談を担当し、現在は八王子市を中心に地域密着で不動産売却をサポートしています。
〖保有資格〗
宅地建物取引士 / 二級建築士 / 2級FP技能士 / 相続アドバイザー二級 / 秘書検定2級 / 既存住宅状況調査技術者