相続した不動産の権利証が見つからない場合でも売却できる?
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親が亡くなり、実家や土地を相続することになったものの、いざ書類を整理してみると「不動産の権利証が見つからない」ということがあります。
「権利証がなければ売却できないのではないか」
「所有者であることを証明できないのではないか」
「権利証を再発行してもらう必要があるのか」
このような不安を持たれる方は少なくありません。
結論からお伝えすると、権利証が見つからなくても、相続した不動産を売却することは可能です。
ただし、不動産の登記名義がまだ亡くなった方のままなのか、それとも既に相続登記を済ませて相続人名義になっているのかによって、手続は大きく異なります。
相続不動産の売却では、単に「権利証があるか、ないか」だけを見るのではなく、現在の登記名義、相続関係、住所のつながり、登記識別情報の有無などを整理して考える必要があります。
そもそも「権利証」とは何なのか
一般的に「権利証」と呼ばれているものには、大きく分けて2種類あります。
以前の登記制度で発行されていたものが「登記済証」、現在の制度で通知されているものが「登記識別情報」です。
現在の登記識別情報は、12桁の英数字等によって構成され、不動産を売却して所有権移転登記を行う場合などに、登記名義人本人からの申請であることを確認する手段の一つとして利用されます。
つまり、権利証そのものが「所有権」なのではありません。
権利証を紛失したからといって、その不動産の所有権まで失うわけではありません。
法務省も、権利証を紛失したからといって不動産の売却等の処分ができなくなるわけではないと案内しています。
最初に確認したいのは「誰の名義になっているか」
相続した不動産の権利証が見つからない場合、まず確認したいのが現在の登記名義です。
法務局で登記事項証明書を取得すると、現在誰が所有者として登記されているのかを確認できます。
相続不動産の場合、大きく分けて次の2つがあります。
①まだ亡くなった親などの名義になっている
この場合、まず相続登記を行います。
②既に相続登記を行い、相続人名義になっている
この場合、相続人自身に通知された登記識別情報があるかどうかを確認します。
実は、この2つでは「権利証がない」という意味がまったく違います。
ケース① 亡くなった方の権利証が見つからない
相続不動産で最も多いのはこちらのケースです。
例えば、父親名義の実家を相続することになったものの、父親が購入したときの権利証がどこを探しても見つからない、というケースです。
この場合、原則として亡くなった方の権利証がなくても相続登記は可能です。
これは非常に重要なポイントです。
通常の売買による所有権移転登記では、売主本人であることを確認するために登記識別情報などを使用します。
一方、相続による所有権移転は、戸籍などによって「所有者が死亡したこと」「誰が相続人であるか」を確認して手続を進めます。
そのため、通常の相続登記では亡くなった方の権利証は原則として必要ありません。日本司法書士会連合会や東京司法書士会も同様の説明をしています。
相続登記では何を使って所有権を確認するのか
遺産分割協議によって一人の相続人が不動産を取得する場合には、一般的に、
被相続人の出生から死亡までの戸籍関係書類、
相続人の戸籍、
遺産分割協議書、
相続人の印鑑証明書、
不動産を取得する相続人の住民票、
固定資産評価証明書などを準備し、相続関係と不動産を取得する人を確認して登記を進めます。
そのため、
「父の権利証が見つからない=相続登記ができない」
ということではありません。
ただし、亡くなった方の権利証が必要になる例外もある
ここは少し専門的ですが、実務上重要です。
亡くなった方の権利証は原則不要ですが、例外的に本人確認や住所のつながりを補完する資料として使用する場合があります。
例えば、登記簿に記載されている住所が、
「八王子市○○町1番地」
となっているのに、その後何度も転居しており、死亡時の住所まで住民票の除票や戸籍の附票を取得しても住所の変遷を完全につなげられないケースです。
古い住民票や戸籍の附票には保存期間などの問題があり、住所の履歴を証明できない場合があります。
こうした場合、登記簿上の所有者と亡くなった方が同一人物であることを補強する資料の一つとして、権利証が利用されることがあります。
法務局が公表している相続登記の必要書類チェックリストでも、被相続人の登記上の住所と最後の住所とのつながりを他の資料で証明できない場合に、登記済証が必要になる場合があることが示されています。
したがって、
「相続登記には絶対に権利証が不要」
とまで考えてしまうのも正確ではありません。
物件ごとの登記履歴や住所履歴を確認することが重要です。
相続登記が終われば、新しい「登記識別情報」が通知される
ここも相続不動産の売却では非常に重要です。
亡くなった方の権利証が見つからなくても、相続登記が無事に完了すれば、新たに不動産の所有者となった相続人には、原則として新しい登記識別情報が通知されます。
例えば、
父親 → 長男
という相続登記を行った場合、父親が持っていた昔の権利証をそのまま長男が引き継いで売却に使用するわけではありません。
相続登記によって長男が新しい登記名義人となり、長男に対して通知された登記識別情報を、その後の売却時の所有権移転登記に使用します。
つまり、
亡くなった方の権利証がなくても相続登記ができれば、その後の売却手続を通常どおり進められるケースは非常に多い
ということです。
ケース② 相続登記後の「自分の登記識別情報」をなくした場合
問題が少し変わってくるのがこちらです。
既に相続登記を完了しており、自分が登記名義人となっているものの、そのときに通知された登記識別情報通知書を紛失してしまったケースです。
この場合でも売却は可能です。
ただし、相続登記前に亡くなった方の権利証がないケースとは異なり、売却時に「登記名義人本人であること」を別の方法で確認する必要があります。
また、紛失した登記済証や登記識別情報は、原則として再発行・再通知してもらうことはできません。
権利証がない場合の代表的な方法① 司法書士による本人確認情報
不動産売買の実務で重要なのが、司法書士などの資格者代理人による「本人確認情報」の制度です。
司法書士が売主本人と面談し、
運転免許証、
マイナンバーカード、
パスポートなどの本人確認資料を確認するとともに、不動産取得の経緯など必要な事項を確認します。
その上で、司法書士が本人確認情報を作成し、登記申請時に法務局へ提供します。
登記官がその内容を適正と認めた場合には、登記識別情報を提供できなくても所有権移転登記を行うことができます。
ただし、通常の所有権移転登記とは別に本人確認情報を作成する業務が必要になるため、司法書士への費用が別途発生することがあります。
費用は司法書士事務所や事案によって異なるため、事前確認が必要です。
方法② 法務局による事前通知制度
もう一つが「事前通知制度」です。
登記識別情報を提供せずに所有権移転登記を申請すると、法務局から現在の登記名義人に、
「このような登記申請が行われています」
という趣旨の通知が送られます。
本人が一定期間内に「この登記申請は間違いありません」という申出を行うことで本人確認を行い、登記手続を進める制度です。
日本国内に住所がある場合、原則として通知を受けてから2週間以内に申出を行う仕組みとなっています。
不動産売買では「事前通知」を使いにくいこともある
制度上は事前通知でも所有権移転登記は可能です。
しかし、不動産売買の決済では、
買主が売買代金を支払う、
売主が所有権を移転する、
金融機関が住宅ローンを実行する、
抵当権を設定する、
という複数の手続を同時に行います。
特に買主が住宅ローンを利用する取引では、金融機関は所有権移転登記や抵当権設定登記が確実に行われることを前提として融資を実行します。
事前通知の場合、登記申請後に売主本人からの回答を待つ必要があります。
そのため、一般的な不動産売買の決済では、司法書士による本人確認情報を利用する方向で事前に調整することがあります。
どの方法を利用するかは、決済方法、金融機関、登記内容などを踏まえて司法書士と事前に確認することが重要です。
「相続人申告登記」をしただけでは売却できない
2024年4月1日から相続登記が義務化され、それに伴って「相続人申告登記」という制度も始まりました。
相続人申告登記は、相続登記の期限が迫っているものの遺産分割協議がまとまらない場合などに、相続人であることを申し出ることで申請義務を履行するための制度です。
しかし、ここには非常に重要な注意点があります。
相続人申告登記をしただけでは、その不動産を売却するための所有権の登記にはなりません。
不動産を実際に売却する場合には、遺産分割等を行った上で正式な相続登記を行う必要があります。
法務省も、相続人申告登記は不動産の権利関係を公示するものではないため、相続した不動産を売却する場合には別途相続登記が必要であると明記しています。
相続登記自体も現在は義務
相続不動産を売却する予定がなくても、現在は相続登記そのものについて注意が必要です。
2024年4月1日から相続登記が義務化されました。
原則として、不動産を相続により取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
2024年4月1日より前に発生していた相続についても対象となり、原則として2027年3月31日までに対応する必要があります。
正当な理由なく義務を履行しない場合には、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
したがって、
「そのうち家を売るときに相続登記すればいい」
という考え方は、現在の制度では注意が必要です。
相続した不動産を売却するときの基本的な流れ
権利証が見つからない場合には、まず次の順序で整理すると分かりやすくなります。
最初に登記事項証明書を取得し、現在の所有者を確認します。
まだ亡くなった方の名義であれば、戸籍関係書類や遺産分割協議書などを準備して相続登記を行います。
相続登記後に通知された登記識別情報を保管し、その後、不動産の売却活動を進めます。
既に相続人名義になっているものの登記識別情報を紛失している場合には、売買契約や決済の直前ではなく、できるだけ早い段階で司法書士へ相談し、本人確認情報などの手続が必要かを確認します。
相続人が複数いる場合はさらに注意
権利証よりもむしろ大きな問題になることがあるのが、相続人同士の権利関係です。
例えば、父親が亡くなり、
母、
長男、
長女
の3人が相続人となっている場合、不動産を誰が相続するのか決まっていなければ、まず遺産分割協議を行う必要があります。
「長男が代表して売却し、あとから代金を分ければよい」
という単純な話ではありません。
共有名義で相続登記をした場合には、原則として共有者全員が売却手続に関与する必要があります。
相続不動産では、権利証の有無だけでなく、
誰が相続人なのか、
遺産分割協議は成立しているか、
誰の名義で相続登記するのか、
売却代金をどのように分配するのか、
という点まで整理しておくことが大切です。
権利証が見つからないときに、売却直前まで放置しない
権利証が見つからないからといって、売却を諦める必要はありません。
ただし、
「決済の前日に権利証がないことに気付いた」
という状態は避けたいところです。
特に、
相続登記が終わっていない、
被相続人の住所が登記簿とつながらない、
相続人が多数いる、
遺産分割協議が終わっていない、
相続人自身の登記識別情報も紛失している、
抵当権が残っている、
といった問題が重なると、売却までに時間がかかることがあります。
売却を検討し始めた段階で登記関係を確認しておけば、必要な手続を先に整理できます。
権利証がなくても、まず登記内容を確認することが重要
相続不動産の権利証が見つからない場合、
「権利証を探すこと」
だけに時間をかける必要はありません。
まず確認するべきなのは、
現在の登記名義が誰なのか
という点です。
亡くなった方の名義のままであれば、原則として亡くなった方の権利証がなくても相続登記を進められます。
そして相続登記が完了すれば、新しい所有者に登記識別情報が通知されます。
既に相続人本人の名義になっており、その登記識別情報を紛失している場合にも、本人確認情報や事前通知などの代替制度があります。
したがって、
「権利証がないから売却できない」のではなく、「現在どの登記手続が必要なのか」を確認することが重要
ということです。
相続不動産では、権利証だけではなく、相続関係、遺産分割、登記名義、住所履歴などを総合的に確認したうえで売却準備を進めることをおすすめします。
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【本ブログ監修者】

株式会社cocoro不動産 代表取締役
★柴田祐介(しばた ゆうすけ)1981年生まれ。
大手不動産会社にて、八王子・町田・新百合ヶ丘など多摩地区を中心に約17年間、不動産売買仲介業務に従事。
不動産売買の実務経験に加え、建築に関する知識を生かし、土地・戸建・マンションの売却に関するご相談に対応しています。
【保有資格】
宅地建物取引士、二級建築士、2級FP技能士、相続アドバイザー二級、秘書検定2級、既存住宅状況調査技術者