擁壁の検査済証がない土地は売却できる?
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高低差のある住宅地では、敷地の周囲に擁壁が設置されていることがあります。
不動産を売却する際に、この擁壁について「検査済証が見つからない」「そもそも検査を受けているのか分からない」というケースは決して珍しくありません。
では、擁壁の検査済証がない土地は売却できないのでしょうか。
結論から申し上げると、擁壁の検査済証がないという理由だけで、不動産そのものを売却できなくなるわけではありません。
所有権を第三者へ移転すること自体は可能です。
しかし、検査済証のない擁壁は、買主が将来建物を新築・建替えするときの建築計画や、土地価格、住宅ローン、売買契約の条件などに影響する可能性があります。
そのため、「売れるか、売れないか」だけではなく、擁壁の法的な位置付けと安全性をどこまで確認できるかが非常に重要になります。
そもそも「擁壁の検査済証」とは?
擁壁とは、道路や隣地との高低差によって生じる土圧を受け止め、土砂の崩壊を防ぐための構造物です。
鉄筋コンクリート造、間知ブロック積み、プレキャスト擁壁など様々な種類があります。
建築基準法上、一定規模の擁壁は単なる外構ではなく、「工作物」として確認申請等の対象になります。
例えば建築基準法施行令第138条では、原則として高さが2mを超える擁壁が確認申請の対象となる工作物として規定されています。
参考:e-Gov法令検索「建築基準法施行令」
建築基準法施行令を確認する
確認申請を行い、設計内容について確認済証が交付され、その設計どおり施工されていることについて完了検査を受けると、検査済証が交付されます。
つまり検査済証は、単に「擁壁が存在する」という資料ではなく、一定の行政手続きを経て完成したことを確認する重要な資料なのです。
「検査済証がない」には3つの状態がある
ここは不動産売却実務では非常に重要です。
一口に「検査済証がない」といっても、実際には次のようなケースがあります。
①検査済証を紛失しているだけ
最も問題が小さいケースです。
過去に適法な手続きを行い、完了検査も受けているものの、所有者が検査済証を紛失しているケースです。
この場合、市役所等の行政記録に確認番号や検査済番号が残っていれば、検査を受けた事実を確認できる可能性があります。
八王子市では、建築台帳記載事項証明書の交付制度があり、工作物についても確認審査・完了検査等の記録を確認できる場合があります。
なお、八王子市では確認済証・検査済証そのものの再発行は行われません。
参考:八王子市「建築台帳記載事項証明書の交付・建築計画概要書の閲覧等について」
八王子市の建築台帳記載事項証明制度を確認する
②確認申請はされているが、検査済証の記録が確認できない
少し注意が必要です。
確認済証が存在しているということは、計画段階では法令に適合する設計であった可能性があります。
しかし、完了検査を受けていなければ、実際の擁壁がその設計どおり施工されたかまでは行政的に確認されていません。
「確認済証がある=現在の擁壁の安全性まで証明されている」ということではありません。
③確認申請・検査済証とも確認できない
売却時に最も慎重な対応が必要になるケースです。
ただし、ここで注意したいのは、
「検査済証がない=直ちに違法擁壁」ではない
という点です。
築造された時期、擁壁の高さ、当時の法令、造成工事や開発許可との関係などによって判断が変わるためです。
古い住宅地では、現在の制度が整備される以前に施工された擁壁も存在します。
したがって、資料がないという事実と、法令違反であるという判断は分けて考えなければなりません。
八王子市では「検査済証がない擁壁」をどう扱っている?
八王子市で擁壁のある土地を売買する場合、非常に重要な行政資料があります。
八王子市は「建築基準法に基づくがけに対する規定」の中で、高さ2mを超える擁壁について、工作物確認申請を行い、工事完了後に検査を受ける必要があることを説明しています。
さらに、
「維持管理が良好であったとしても、確認済証や検査済証のない擁壁は、安全であるとみなされません」
という考え方を示しています。
参考:八王子市「建築基準法に基づくがけに対する規定」
八王子市公式ページを確認する
これは売却実務上かなり重要です。
見た目にひび割れがなく、何十年間も問題が起きていないからといって、行政上当然に「安全な擁壁」と認められるわけではないからです。
東京都の「がけ条例」と擁壁の関係
八王子市を含む東京都では、東京都建築安全条例第6条、いわゆる「がけ条例」にも注意が必要です。
同条例では、高さ2mを超えるがけに近接して建物を建築する場合について、一定の安全措置を求めています。
原則として、高さ2mを超えるがけの下端から、がけ高の2倍以内の範囲に建築物を建築したり敷地を造成したりする場合には、一定の擁壁等による安全対策が必要になります。
一方、既存擁壁について構造耐力上支障がないことが確認できる場合や、建築物側で安全対策を行う場合など、例外的な取扱いもあります。
参考:東京都「東京都建築安全条例 第6条」
東京都建築安全条例を確認する
つまり、既存擁壁の検査済証が確認できないからといって必ず擁壁を造り直すわけではありません。
ただし、新築や建替えを行う際には、設計者や確認検査機関から既存擁壁の安全性について追加検討を求められる可能性があります。
盛土規制法との関係にも注意
現在は「宅地造成及び特定盛土等規制法」、いわゆる盛土規制法も重要です。
盛土規制法では、規制区域内で一定規模以上の盛土・切土等を行う場合、原則として許可が必要となり、対象工事によっては中間検査や完了検査も行われます。
国土交通省は、盛土等が行われた土地について、土地所有者等が安全な状態に維持する責務を負うことも明確にしています。
参考:国土交通省「盛土規制法について」
国土交通省・盛土規制法ポータルを確認する
古い擁壁の場合には、旧宅地造成等規制法、都市計画法による開発許可、建築基準法による工作物確認など、どの制度に基づいて築造された擁壁なのかを確認することが重要になります。
検査済証がないと、なぜ売却価格に影響するのか?
最大の理由は「将来費用が読めない」からです。
買主が土地を購入して建物を建替えようとしたところ、
「既存擁壁について安全性を確認してください」
「構造計算等による確認が必要です」
「擁壁を新設してください」
などと指摘される可能性があります。
擁壁の再築造には、擁壁本体だけでなく、既存擁壁の撤去、掘削、残土処分、地盤改良、隣地対策、道路使用などが関係します。
敷地条件によっては非常に大きな工事になるため、買主側はそのリスクを購入価格へ反映させようとします。
したがって、
「検査済証がないから土地の価値がない」のではなく、「将来発生する可能性のある費用と建築リスクが価格へ織り込まれる」
と考えた方が実務的です。
住宅ローンにも影響する?
検査済証がない擁壁だからといって、一律に住宅ローンが利用できなくなるわけではありません。
ただし、買主が土地を購入して注文住宅を建築する場合などでは、金融機関だけでなく、ハウスメーカー、設計事務所、確認検査機関による確認も必要になります。
そこで既存擁壁の安全性について問題が生じれば、建築計画そのものが変更される可能性があります。
結果として、
「予定していた建物が建てられない」
「擁壁工事費が追加で必要になる」
「総事業費が住宅ローンの予算を超える」
といった問題につながることがあります。
そのため、擁壁の問題は単純な法令問題ではなく、土地価格・建築費・住宅ローンを一体として考える必要があります。
売却前に確認すべき8項目
擁壁の検査済証が確認できない土地を売却する場合、少なくとも次の内容を調査します。
1.擁壁の高さ
2mを超えるかどうかだけではなく、前面地盤・背面地盤の位置関係を確認します。
2.擁壁の種類
RC造なのか、間知ブロックなのか、大谷石・玉石・空石積みなのかを確認します。
3.確認済証・検査済証
市役所等で工作物確認の履歴を調査します。
4.造成・開発許可の履歴
擁壁単独ではなく、宅地造成や開発許可の一部として築造されているケースがあります。
5.擁壁の所有者
擁壁が自分の土地にあるからといって、自分の所有物とは限りません。
境界線との位置関係、造成時の資料、隣地との取り決め等を確認します。
6.現況の劣化状態
ひび割れ、傾斜、膨らみ、不同沈下、水抜き穴の状態、排水状況などを確認します。
7.増し積み・二段擁壁の有無
既存擁壁の上にコンクリートブロック等を積み、その裏側まで土が入っている「増し積み擁壁」や、擁壁を上下二段に設けた構造は特に慎重な確認が必要です。
国土交通省も、空石積造擁壁や増し積み擁壁などについて、地震時等の被害事例を示し注意を促しています。
参考:国土交通省「宅地擁壁について」
国土交通省・宅地擁壁について確認する
8.将来の建替えへの影響
最も重要なのがここです。
現在建物が建っているからといって、将来同じ条件で建替えできるとは限りません。
可能であれば販売前に建築士等へ相談し、「建替え時に既存擁壁をどのように評価することになるのか」を確認しておくと、買主へ具体的な説明がしやすくなります。
擁壁の安全性は「見た目」だけでは判断できない
擁壁を見るときには、
・大きなひび割れがある
・擁壁が前方へ膨らんでいる
・傾いている
・水抜き穴から排水されていない
・擁壁表面から大量の水が染み出している
・地盤が沈下している
・擁壁上部に増し積みがある
といった点を確認します。
しかし、表面から見ただけでは、擁壁内部の鉄筋、基礎寸法、根入れ、背面排水、地盤支持力などは確認できません。
国土交通省も、宅地擁壁について健全度判定・予防保全対策マニュアルを公表しており、擁壁の状態に応じて補修・補強・再構築等を検討する考え方を示しています。
参考:国土交通省「宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル」
国土交通省の擁壁健全度判定資料を確認する
検査済証がない土地を売却するときの重要ポイント
売却するときに最も避けるべきなのは、根拠なく、
「昔からあるので大丈夫です」
「問題なく建替えできます」
「2m以下なので安全です」
などと説明してしまうことです。
不動産売買では、分からないことを無理に「問題なし」と判断する必要はありません。
むしろ、
「検査済証について行政調査を行ったが確認できていない」
「築造時期は○年頃と推定される」
「現況ではこのような状態である」
「建替え時の取扱いについては設計者・確認検査機関による個別判断となる」
というように、確認できた事実と確認できていない事実を明確に分けることが重要です。
宅地建物取引業法上の重要事項説明においても、宅地の形状や擁壁等について適切に説明することが求められています。
参考:国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」
国土交通省の宅建業法資料を確認する
「検査済証なし」を理由に安く売る前に調査する
擁壁がある土地を査定すると、
「検査済証がないから大幅に値段を下げましょう」
という話になることがあります。
しかし、本来は順序が逆です。
まず、
行政記録を調査する。
↓
築造時期・造成履歴を調査する。
↓
擁壁の構造・高さ・所有関係を確認する。
↓
現況の劣化状態を確認する。
↓
必要に応じて建築士等へ相談する。
↓
将来の建替えへの影響を整理する。
そのうえで価格へ反映させるべきです。
調査した結果、「実は検査済記録が残っていた」という場合もあります。
逆に、外観上きれいな擁壁でも、資料がなく、増し積みや構造上の問題が判明することもあります。
擁壁のある土地は、単純な坪単価だけでは正確な査定ができない不動産の代表例といえます。
よくある質問(Q&A)
Q1.擁壁の検査済証がなくても土地は売却できますか?
はい、売却できます。
検査済証がないこと自体が所有権移転を禁止するものではありません。
ただし、買主の建築計画や土地評価へ影響する可能性があるため、事前調査と説明が重要です。
Q2.検査済証を紛失した場合は再発行できますか?
八王子市では確認済証・検査済証そのものの再発行は行っていません。
ただし、市の建築台帳等に記録が残っていれば、検査済証の交付履歴などを確認できる場合があります。
Q3.2m以下の擁壁なら問題ありませんか?
一概にはいえません。
2m以下で建築基準法上の工作物確認申請の対象外となる場合でも、安全性そのものが保証されるわけではありません。
劣化、傾斜、増し積み、排水不良などがある場合は専門家による確認が必要です。
Q4.古い石積み擁壁でも売却できますか?
売却自体は可能です。
ただし、空石積み、大谷石、玉石積みなど古い擁壁については、安全性や将来の建替えへの影響を慎重に確認する必要があります。
Q5.検査済証がない場合、必ず擁壁を造り直さなければなりませんか?
必ずしも造り直すとは限りません。
既存擁壁について安全性を確認できる場合や、建物側の設計によって安全性を確保できる場合などがあります。
最終的には個々の土地・擁壁・建築計画を踏まえて、設計者や確認検査機関等が判断することになります。
まとめ|擁壁のある土地は「調査してから売る」ことが重要
擁壁の検査済証がなくても土地を売却することはできます。
しかし、
「売却できる」ことと、「何も問題がない」ことは全く別です。
特に高低差の多い八王子市では、擁壁、がけ条例、造成履歴、道路との高低差などが土地の評価や建替え計画に大きく影響することがあります。
検査済証がない場合も、最初から「危険な土地」「売れない土地」と決めつける必要はありません。
行政調査、現地確認、建築的な検討を行い、
どこまで分かっているのか。
どこから先は専門家の判断になるのか。
将来どのような費用が発生する可能性があるのか。
これらを整理したうえで販売することが重要です。
擁壁のある土地ほど、不動産会社にも建築・造成・法令に関する知識が求められます。
株式会社cocoro不動産では、八王子市内の擁壁、高低差、がけ条例、私道、境界など、一般的な査定だけでは判断しにくい不動産についても、行政調査を含めて状況を整理しながら売却方法をご提案しています。
★無料相談受付中|擁壁のある土地の売却もお気軽にご相談ください。
実際にご相談いただいたお客様の声は、Google口コミでもご確認いただけます。
【本ブログ監修者】

柴田祐介(しばた ゆうすけ)1981年生まれ。
大手不動産会社にて、八王子・町田・新百合ヶ丘など多摩地区を中心に約17年間、不動産売買仲介に従事。
これまで多くの不動産売却・購入・相続不動産の相談を担当し、現在は八王子市を中心に地域密着で不動産売却をサポートしています。
【保有資格】
宅地建物取引士 | 二級建築士 | 2級FP技能士 | 相続アドバイザー二級 | 秘書検定2級 | 既存住宅状況調査技術者