大谷石の擁壁がある土地を売却するとき注意すること
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八王子市内の住宅地を見ていると、道路や隣地との間に高低差があり、その土を支えるために「大谷石」を使った擁壁が残っている土地があります。
大谷石の擁壁は昭和期に造成された住宅地などで見かけることがありますが、売却時には注意が必要です。
ただし、最初に理解しておきたいのは、
「大谷石の擁壁だから危険」
「大谷石だから違法」
と単純に判断できるものではないということです。
擁壁の安全性や法的な取扱いは、石の種類だけではなく、
・いつ築造されたのか
・どのような構造で造られているのか
・宅地造成や開発許可を受けているのか
・確認済証や検査済証があるのか
・現在どの程度劣化しているのか
・擁壁の高さはどの程度か
・擁壁の上や下に建物があるのか
・建替えの際に既存擁壁を利用できるのか
などを総合的に確認する必要があります。
大谷石擁壁のある土地は、こうした調査をしないまま販売すると、買主が住宅メーカーへ相談した段階で問題が判明し、売買条件の変更や価格交渉につながることがあります。
大谷石とはどのような石なのか
大谷石は栃木県宇都宮市周辺で産出される凝灰岩で、加工しやすく、塀、門柱、建築物、擁壁など幅広く使用されてきました。
一方で、大谷石は内部に空隙を持つ石材であり、水分の影響を受けることがあります。
研究でも、大谷石について吸水や凍結融解などによる劣化が確認されています。
長期間屋外で雨水や地下水の影響を受ける擁壁では、石材表面の風化、欠損、目地の劣化などが進んでいることがあります。
したがって、大谷石擁壁は「築造当時どう造られたか」と同時に、「現在どのような状態か」を確認することが重要です。
大谷石擁壁はすべて同じ構造ではない
大谷石が積まれているように見えても、内部構造は物件によって異なります。
特に重要なのが、
練積み擁壁
と
空石積み擁壁
の違いです。
練積み擁壁とは、石を積みながらその背面をコンクリートなどで一体化させ、裏込め材や排水設備などを設けた構造です。
一方、空石積みは、石材を積み上げて土を押さえているような構造で、現在の擁壁に求められる構造的な基準を満たしていないことがあります。
国土交通省も、空石積み擁壁や二段擁壁、増積擁壁などについて、標準的な擁壁構造とは異なるものとして注意を促しています。
そのため、
「大谷石が積まれている」
という外観だけでは、安全性を判断することはできません。
実は「大谷石の大臣認定擁壁」も存在する
ここは不動産売却実務では非常に重要なポイントです。
過去には、
「日地モルタルを使用する大谷石積み造擁壁」
について建設大臣認定を受けた構造が存在します。
国土交通省の資料には、昭和43年11月20日付の認定として、大谷石の比重、擁壁高さ、根入れ深さ、背面土の条件など、具体的な築造条件が記載されています。
つまり、
大谷石で造られているという理由だけで直ちに不適格な擁壁と判断することはできません。
逆に、大臣認定擁壁と同じように見えたとしても、
「当時その仕様で施工されたのか」
「許可・検査を受けているのか」
を確認できなければ、認定擁壁として扱えるとは限りません。
売却時には外観だけではなく、行政資料を調査することが重要になります。
売却前に最も確認したい「許可・検査」の履歴
大谷石擁壁のある土地を売却するときは、まず行政で造成履歴を確認します。
具体的には、
・都市計画法の開発許可
・旧宅地造成等規制法の宅地造成許可
・現在の盛土規制法に関する資料
・擁壁の工作物確認
・確認済証
・検査済証
・開発登録簿
などです。
八王子市では、都市計画法に基づく開発登録簿を市役所で閲覧・取得することができます。
また、一定の年代以降については工作物の確認申請記録などを確認できる場合があります。
ただし、確認済証や検査済証そのものは再発行できず、古い擁壁では資料が残っていない場合もあります。
資料が見つからない場合には、
「資料がない=違法」
と即断するのではなく、
「行政記録として確認できない」
「現況について別途安全性を検討する必要がある」
と整理することが大切です。
擁壁が2mを超えている場合は特に注意
擁壁の高さは売却時の重要な確認事項です。
現在、八王子市では、高さ2mを超える擁壁を新たに設ける場合、建築基準法上の工作物確認が必要になる場合があります。
市も、高さ2mを超える擁壁について確認済証・検査済証の重要性を案内しています。
ただし、注意したいのは、
「2m以下なら安全」
という意味ではないことです。
2m以下の擁壁であっても、
・傾いている
・膨らんでいる
・石がずれている
・目地が大きく抜けている
・水抜きが機能していない
といった状態であれば、安全性を検討する必要があります。
また、盛土規制法では擁壁の高さだけでなく、盛土・切土の高さや規模など複数の基準があります。
八王子市では2024年7月31日から市内全域が「宅地造成等工事規制区域」に指定されています。
そのため、将来擁壁を造り替える場合には、現在の法令に基づく確認が必要です。
大谷石擁壁で確認したい劣化症状
現地では少なくとも次のような点を確認します。
石の表面がボロボロになっていないか
表面が粉状に剥離していたり、角が大きく欠けたりしている場合は、風化が進んでいる可能性があります。
石が前方へ押し出されていないか
擁壁全体、または一部分が前方へ膨らんでいる状態を「はらみ出し」と呼ぶことがあります。
背面土圧や地下水などの影響が考えられます。
擁壁が傾いていないか
擁壁全体が道路側や隣地側へ傾いている場合は注意が必要です。
目地が抜けていないか
石と石の間のモルタルが剥がれたり、大きく開いたりしていないかを確認します。
水抜き穴があるか
擁壁の背面に雨水や地下水が溜まると、擁壁に大きな圧力がかかります。
そのため、擁壁では排水が非常に重要です。
八王子市も擁壁点検のポイントとして、
・石積みブロックのずれ
・亀裂
・沈下
・水抜き穴の詰まり
などを挙げています。
「水抜き穴がない」だけで判断してはいけない
古い大谷石擁壁では、水抜き穴が見当たらない場合があります。
この場合、
「水抜き穴がないから危険」
と単純に断定することも適切ではありません。
築造年代、背面地盤、透水層、排水設備、擁壁高さなどを含めて確認する必要があります。
しかし、擁壁背面に水が溜まれば土圧が増えるため、排水状況は非常に重要な調査項目です。
特に、
・擁壁から常に水が染み出している
・雨の後だけ大量に水が出る
・擁壁上部の地盤が沈下している
・擁壁上部に雨水が集中する
といった状態があれば、より慎重な確認が必要です。
擁壁上にブロックを積み足している場合
大谷石擁壁の上に、
・コンクリートブロック
・石
・別の擁壁
などを後から積み足しているケースがあります。
いわゆる「増積み擁壁」の状態です。
この場合、既存擁壁が当初想定していなかった荷重を受けている可能性があります。
見た目にはしっかりしていても、安全性を単純に判断することはできません。
また、
大谷石擁壁+コンクリートブロック
など複数の構造が組み合わさっている場合は、住宅メーカーや設計者が既存擁壁をそのまま利用できないと判断することがあります。
売却前に確認しておくべき重要なポイントです。
大谷石擁壁の近くに建物がある場合
擁壁の安全性は、土地だけではなく建物の建築計画にも影響します。
特に、
擁壁のすぐ近くに住宅が建っている土地
では注意が必要です。
建替えの際に既存擁壁の安全性が確認できなければ、
・擁壁から建物を離す
・深基礎にする
・杭などを検討する
・既存擁壁を補強する
・擁壁を造り直す
といった対応が必要になることがあります。
八王子市でも、がけ上に建物を建築する場合、既設擁壁について構造耐力上支障がないことなどを確認する考え方を示しています。
つまり、
現在家が建っているから、将来も同じ位置に建替えられる
とは限りません。
これは土地価格にも大きく関係する部分です。
「建替えできるか」を売却前に確認することが重要
大谷石擁壁の土地で特に問題になりやすいのは、買主が住宅メーカーへ建築相談をしたときです。
例えば、
「この大谷石擁壁は安全性を確認できません」
と住宅メーカーから言われると、
買主は、
「擁壁を全部造り直さないと家が建てられないのではないか」
と考えます。
その結果、
・購入を見送る
・擁壁工事費を価格から差し引いて交渉する
・建築条件の良い別の土地を選ぶ
ということがあります。
そのため、大谷石擁壁の土地では、
販売を開始してから調べるのではなく、販売前にできる範囲で調べておく
ことが非常に重要です。
擁壁工事費は単純に「1mいくら」では計算できない
擁壁を造り直す場合の費用は、擁壁面積だけでは決まりません。
例えば、
・擁壁の高さ
・擁壁の長さ
・道路幅員
・重機が入れるか
・既存擁壁の撤去方法
・残土搬出量
・地盤条件
・基礎形状
・隣地との距離
・電柱、上下水道、ガス管などの位置
によって大きく変わります。
特に道路が狭く大型重機が使用できない土地や、擁壁のすぐ近くに隣家がある場合は、工事費が大きくなることがあります。
したがって、査定時に、
「擁壁工事は○百万円です」
と根拠なく決めつけるのは適切ではありません。
必要に応じて専門業者や設計者へ確認することが重要です。
売却価格への影響は「大谷石だから」ではなく将来負担で考える
大谷石擁壁のある土地は、必ず価格が大幅に下がるわけではありません。
重要なのは、
買主が将来どの程度の費用・制約・不確定要素を負担するのか
という点です。
例えば、
影響が比較的小さいケース
・擁壁が低い
・劣化がほとんどない
・許可や検査資料が確認できる
・建物と擁壁の距離がある
・建替え計画への影響が少ない
一方で、
価格に影響しやすいケース
・擁壁が高い
・大きなはらみや傾きがある
・許可・検査資料がない
・増積み擁壁になっている
・擁壁直近に建物がある
・造り替えないと建築計画が難しい
・隣地側へ倒壊する可能性がある
などがあります。
つまり、査定では、
「大谷石擁壁あり」
という一項目だけで価格を決めるのではなく、
擁壁が土地利用にどの程度影響するか
まで検討する必要があります。
境界と擁壁の所有者も確認する
擁壁が境界付近にある場合、
誰の擁壁なのか
という問題もあります。
見た目では自分の土地の擁壁に見えていても、
・擁壁全部が自分の土地にある
・擁壁全部が隣地にある
・境界線上にある
・擁壁下端と上端で位置が違う
などさまざまです。
特に擁壁修繕や造り替えを行う場合、所有関係が不明確だと工事が進めにくくなることがあります。
売却時には、
・確定測量図
・境界標
・地積測量図
・過去の造成図面
なども確認します。
売主が自分で補修してから売った方がよいとは限らない
表面が傷んでいるからといって、売却前にモルタルを塗ったり、石を交換したりすることが必ずしも良いとは限りません。
表面的な補修では、擁壁全体の構造安全性が改善しないことがあります。
さらに補修してしまうことで、
・亀裂
・石の状態
・水の染み出し
などが見えなくなることもあります。
売却を予定しているのであれば、まず現況を確認し、
調査 → 必要性判断 → 補修・補強・現況売却
の順番で考えた方がよいケースが多いでしょう。
売却前に確認したいチェックポイント
大谷石擁壁の土地では、少なくとも次の項目を確認しておくことをおすすめします。
・擁壁の高さ
・擁壁の長さ
・擁壁の築造年代
・練積みか空積みか
・はらみ出し
・傾斜
・石材の欠損
・目地の劣化
・水抜き穴
・排水状態
・擁壁上部の沈下
・増積みの有無
・二段擁壁になっていないか
・開発許可の有無
・宅地造成許可の有無
・工作物確認の有無
・検査済証の有無
・建物と擁壁の距離
・境界との位置関係
・将来の建替えへの影響
これらを整理してから販売することで、買主への説明もしやすくなります。
八王子市では擁壁調査がより重要になっている
八王子市には丘陵地や造成地が多く、高低差のある住宅地も少なくありません。
また、八王子市では2024年7月31日から市内全域が盛土規制法の宅地造成等工事規制区域に指定されています。
さらに市では、2026年7月から2027年2月を予定期間として、過去に盛土造成された土地を対象に盛土や擁壁の構造確認調査も進めています。
今後、不動産売却では、擁壁や造成履歴についてこれまで以上に丁寧な調査が求められる可能性があります。
まとめ|大谷石擁壁は「見た目」ではなく資料と現況を調べる
大谷石擁壁のある土地を売却するときに重要なのは、
「古いから危険」
「大谷石だから売れない」
と決めつけないことです。
一方で、
「昔から問題なく使えているから大丈夫」
と考えるのも適切ではありません。
重要なのは、
①どのような構造なのか
②許可・検査履歴があるのか
③現在どの程度劣化しているのか
④建替えにどのような影響があるのか
⑤将来どの程度の費用負担が想定されるのか
を整理することです。
特に擁壁のある土地では、販売開始後に買主側の住宅メーカーから指摘されて初めて問題が分かるケースがあります。
その段階で価格交渉になるよりも、売却前に行政調査や現地確認を行い、分かっていることと分からないことを整理して販売した方が、売主・買主双方にとって安心できる取引につながります。
株式会社cocoro不動産では、八王子市内の土地売却について、道路、高低差、擁壁、境界、造成履歴、建築条件なども確認しながら売却方法をご提案しています。
大谷石擁壁がある土地についても、「そのまま売れるのか」「擁壁を直す必要があるのか」「土地価格にどの程度影響するのか」など、物件ごとに確認していくことが大切です。
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★柴田祐介(しばた ゆうすけ)1981年生まれ。
大手不動産会社にて八王子・町田・新百合ヶ丘など多摩地区を中心に約17年間勤務。
在職期間中には建築・デザイン分野についても専門的に学び、不動産だけではなく建物・造成・擁壁などを含めた総合的な視点から不動産取引を確認しています。
宅地建物取引士、二級建築士、2級FP技能士、相続アドバイザー二級、秘書検定2級、既存住宅状況調査技術者