他人の土地を通っている水道管|不動産売買で確認すべき権利関係と注意点
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土地や一戸建ての売買調査をしていると、まれに「自宅の水道管が隣地や私道など、他人の土地を通って引き込まれている」というケースがあります。
反対に、自分の土地の地下を隣家の水道管が通っているケースもあります。
普段、水道が問題なく使えているため見過ごされやすいのですが、不動産売買では非常に重要な問題です。
なぜなら、問題になるのは現在水が出るかどうかだけではなく、
「将来、漏水したときに他人の土地を掘削できるのか」
「老朽化した水道管を交換できるのか」
「土地所有者が変わっても、そのまま使用できるのか」
という将来の維持管理まで含めた権利関係だからです。
■まず確認したい「配水管」と「給水管」の違い
水道管を考えるときには、まず「配水管」と「給水管」を区別する必要があります。
道路内などに設置され、多数の宅地へ水を供給している本管が一般的に「配水管」です。
そこから各住宅へ分岐して引き込まれている管が「給水管」です。
東京都水道局では、各家庭に引き込まれている給水管や家庭内の水道設備について、水道メータを除き原則として利用者側の財産としています。
つまり、道路から宅地へ入っている管だからといって、すべて水道局が所有・管理しているわけではありません。
この違いを理解しないまま、
「水道局の管だから大丈夫でしょう」
と判断するのは危険です。
■よくあるのが「隣地を経由して給水している土地」
例えば、
公道
↓
Aさんの土地
↓
Bさんの土地
という位置関係で、道路内の配水管からBさんの土地へ直接給水管を引き込まず、Aさんの土地の地下を通ってBさんの土地へ水道が供給されているケースがあります。
古くから宅地化されている地域や、昔一つだった土地を分筆して売却した地域、旗竿地、私道沿いの住宅などでは珍しくありません。
問題は、その状態が「いつ、どのような権利に基づいて作られたのか」です。
■2023年の民法改正で「設備設置権」が明文化された
ここで重要になるのが、2023年4月1日に施行された改正民法です。
民法第213条の2では、他人の土地に設備を設置したり、他人が所有する設備を使用しなければ、水道・電気・ガスなどの継続的な供給を受けることができない土地について、必要な範囲で他人の土地に設備を設置したり、他人の設備を使用したりできることが明文化されました。
これは水道管だけではなく、ガス管、電線、通信設備などにも関係する重要な改正です。
従来も相隣関係などから一定の権利が認められると解釈されていましたが、法律上の根拠が必ずしも明確ではありませんでした。
そこで改正民法によって「ライフラインを引き込むための設備設置・使用に関する権利」が明確化されました。
■では、隣地所有者の承諾なしで自由に水道管を通せる?
ここは非常に誤解されやすいところです。
民法213条の2ができたからといって、
「隣地所有者の承諾なしで自由に水道管を埋設できる」
という制度ではありません。
まず、この権利が認められるのは、他人の土地等を使用しなければ水道水の供給を受けることができない場合です。
さらに、設備を設置する場所・方法についても、相手方の土地や設備に与える損害が最も少ない方法を選択しなければなりません。
したがって、
「隣地を通した方が工事費が安い」
「道路から直接引くより距離が短い」
という理由だけで当然に他人の土地を使用できるとは限りません。
■工事前の「通知」も必要
民法213条の2では、設備設置権を行使する場合、あらかじめ設備を設置する目的・場所・方法を土地所有者等へ通知することも求めています。
つまり、法律上の設備設置権がある場合でも、
突然隣地に入り、
勝手に掘削し、
勝手に給水管を設置してよい、
という意味ではありません。
相手方が設備設置を拒絶している場合には、自力で強行せず、必要に応じて裁判手続によって妨害禁止等を求めることになる場合もあります。
■東京都水道局では土地所有者の承諾を求めている
さらに注意したいのが、「民法上の権利」と「水道局の工事申込手続」は別問題だという点です。
東京都水道局では、他人の土地を通して給水管を引き込む場合について、申込者が利害関係人の同意を得ていることなどを前提として手続きを行っています。
また、給水装置工事について第三者から異議が出た場合には、工事申込者側で解決する取扱いとなっています。
東京都給水条例第12条でも、給水装置工事に関して利害関係人などから異議があった場合には、給水装置の工事を行う者の責任とされています。
参考:東京都給水条例
したがって、不動産実務では、
「民法上権利があるから承諾書は一切不要」
と単純に処理するべき問題ではありません。
■昔の「水道管埋設承諾書」があれば安心?
他人の土地を通っている水道管について調査すると、
「昔、隣の人から許可をもらっているはず」
という話が出ることがあります。
しかし、不動産売買では「はず」では足りません。
確認したいのは、
・誰と誰が合意したのか
・どの土地についての合意なのか
・どこを水道管が通っているのか
・無償なのか有償なのか
・修繕・交換工事のための掘削が認められているのか
・工事後の原状回復を誰が負担するのか
・所有者が変わった場合にも承継する内容なのか
という具体的な内容です。
単に、
「水道管の埋設を承諾します」
だけでは、将来の維持管理まで十分にカバーできていない場合があります。
■土地所有者が変わった場合はさらに注意
非常に重要なのがここです。
例えば30年前にAさんとBさんとの間で交わされた承諾書が存在していても、その後Aさんの土地がCさんへ売却された場合、昔の承諾内容が当然にすべてCさんへ引き継がれるとは限りません。
承諾書が単なる当事者間の契約なのか、土地に付随する権利として設定されているのかなどによって扱いが異なります。
恒久的な権利関係をより明確にする方法としては、水道管の埋設・維持管理を目的とする「地役権」を設定する方法も考えられます。
民法280条では、地役権について、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利と規定しています。
地役権を登記することで、単なる当事者間の承諾書よりも権利関係を明確にできるケースがあります。
ただし、すべての案件で地役権設定が必要という意味ではなく、具体的な土地関係・配管経路・既存契約等から判断します。
■「何十年も使っているから権利がある」とも限らない
もう一つ注意したいのが取得時効です。
「40年間ずっとこの水道管を使用しているから、地役権を取得しているのでは?」
という話になる場合があります。
しかし、民法283条では、地役権を時効取得できるのは、
「継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるもの」
に限られています。
地下に完全に埋設され、地表から配管経路が分からない水道管については、この「外形上認識できる」という要件が問題になります。
したがって、
「20年以上使っているから当然に水道管を通す権利が時効取得されている」
と安易に判断することはできません。
■既存の水道管にも民法213条の2があるから問題ない?
ここも慎重な判断が必要です。
2023年の民法改正によって設備設置権・設備使用権が明文化されましたが、
「昔、無断で設置された水道管がすべて自動的に適法になる」
という制度ではありません。
既存管については、
・設置された経緯
・当時の承諾
・現在の土地所有者
・配管経路
・代替ルートの有無
・民法213条の2の要件
・地役権等の有無
などを個別に確認する必要があります。
■漏水したときに本当の問題が発生する
他人の土地を通る水道管で最も問題になりやすいのは、新設時よりむしろ「修繕時」です。
例えば隣地地下の給水管から漏水した場合、その管を修理するためには、
隣地へ入る
↓
舗装や庭を掘削する
↓
水道管を修理・交換する
↓
埋め戻す
↓
舗装・植栽等を原状回復する
という工事が必要になります。
このとき、
「水道管の埋設は認めているが、土地を掘ってよいとは聞いていない」
という話になれば、トラブルになる可能性があります。
したがって承諾書・覚書を作成する場合には、「埋設」だけでなく、
修繕
交換
撤去
掘削
立入り
原状回復
まで規定しておくことが重要です。
■修理費用は誰が負担する?
東京都水道局では、各家庭へ引き込まれている給水管等について、原則として利用者側の財産として扱っています。
そのため、私有の給水管で漏水や老朽化が発生すれば、その給水管の所有者側が修繕費を負担することが基本になります。
ただし、
複数住宅で一本の私設管を共同使用している
というケースは別問題です。
この場合、
・管の所有者は誰か
・誰がどこまで使用しているのか
・維持管理費をどう分担するのか
まで確認する必要があります。
民法213条の2でも、他人所有設備を使用する場合には、利益を受ける割合に応じて修繕・維持等の費用を負担する規定があります。
■逆に「自分の土地を隣家の水道管が通っている」場合
売却対象地の地下を隣家の水道管が通っているケースも要注意です。
例えば建物を解体して新築しようとしたところ、
「建物の基礎を施工したい位置に隣家の給水管がある」
ということがあります。
この場合、
「自分の土地だから勝手に切ってしまえばよい」
とは考えない方がよいでしょう。
隣家側がどのような権利に基づいて給水管を使用しているのか確認したうえで、必要に応じて移設協議を行います。
移設を要求できるのか、移設費を誰が負担するのかについても、既存契約や民法上の権利関係によって変わります。
東京都水道局でも、敷地内を隣家の給水管が通っている場合、給水管の移設は給水管所有者から指定給水装置工事事業者へ依頼して施工する取扱いを案内しています。
■不動産売買では何を調査する?
当社でこのような物件を取り扱う場合、単に水道局へ
「水道は来ていますか?」
と確認するだけでは終わりません。
少なくとも次の資料・事項を確認します。
①給水装置図面
水道局に保管されている給水装置図面を確認し、配水管から宅地までどのように給水管が引き込まれているか確認します。
東京都水道局では一定の条件のもと、給水装置図面の閲覧・抄本交付制度があります。
②水道管管理図
道路内の配水管の位置・口径などを確認します。
ただし、管理図と現地の実際の位置が完全に一致するとは限らないため注意します。
③公図・地積測量図・確定測量図
水道管が通っている場所が本当に対象地なのか、隣地なのか、私道なのかを確認します。
④水道管埋設承諾書・覚書
過去の売買契約書、重要事項説明書、承諾書、覚書などを確認します。
⑤現在の土地所有者
昔承諾した所有者から相続や売買によって所有者が変わっていないか、登記事項証明書で確認します。
⑥配管の現況
必要に応じて東京都指定給水装置工事事業者などにも確認し、管種・口径・分岐方法・移設可能性などを調査します。
■売却前に「引き直した方がよい」ケースもある
他人の土地を通っているからといって、必ず水道管を引き直さなければ売却できないわけではありません。
しかし、
前面道路に配水管がある
直接引込みが技術的に可能
隣地経由の配管に明確な承諾書がない
隣地所有者との関係も不明確
という場合には、売却前に自己敷地へ直接給水管を引き直した方が、将来のトラブルを大幅に減らせることがあります。
工事費だけでなく、売却のしやすさ・買主の安心感まで含めて判断します。
■住宅ローンにも影響する?
「他人の土地を水道管が通っている=住宅ローンが組めない」
ということではありません。
ただし、物件の生活インフラが第三者所有地に依存しているにもかかわらず、その使用権限が全く確認できない場合には、金融機関や保証会社から追加資料や説明を求められる可能性があります。
特に、
「隣地所有者から撤去を要求されれば水道が使えなくなる可能性がある」
という状態であれば、物件利用の安定性に関係します。
そのため、売却前に権利関係を整理しておくことには大きな意味があります。
■重要事項説明でも確認すべき事項
宅地建物取引業法第35条では、飲用水・電気・ガスの供給及び排水施設について、その整備状況等が重要事項説明の対象とされています。
他人所有地を経由する私設給水管は、単に「公営水道あり」とだけ記載すれば実態が十分伝わる問題ではありません。
実務上は、
「本物件への給水管は第三者所有地を経由して引き込まれている」
「水道管埋設に関する覚書が存在する」
「将来の修繕・交換については覚書の定めによる」
など、買主が将来のリスクを理解できる形で説明しておくことが重要です。
■売却時には「現在使えるか」ではなく「将来も使えるか」を確認する
他人の土地を通っている水道管の問題は、通常生活している間はほとんど表面化しません。
水道も普通に使えます。
漏水もしません。
隣人から何も言われません。
そのため、
「今まで何十年も問題なかった」
という理由で、そのまま売却されている物件もあります。
しかし不動産売買では、
「現在問題がない」
ことと、
「将来も法的・物理的に問題なく使用できる」
ことは分けて考える必要があります。
水道管の経路だけでなく、
誰の土地を通っているか
誰の管なのか
どのような権利で設置されているか
修繕時に掘削できるのか
費用負担はどうなるのか
所有者変更後にも権利関係が維持されるのか
まで確認することが重要です。
■よくあるご質問
Q.他人の土地を通っている水道管でも不動産は売却できますか?
A.売却自体が直ちにできなくなるものではありません。
ただし、給水管の経路、所有者、承諾書等の有無、修繕・交換時の権利関係などを確認し、買主へ説明する必要があります。
状況によっては売却前に覚書を取り交わしたり、直接引込みへ変更した方がよい場合もあります。
Q.隣地所有者から承諾書をもらっていない場合、水道管は撤去しなければなりませんか?
A.必ずしもそうとは限りません。
民法213条の2による設備設置権等が成立する可能性があります。
ただし、代替経路の有無など具体的な条件によって判断が変わるため、「承諾書がない=撤去」「民法がある=問題なし」のどちらとも一概にはいえません。
Q.30年以上水道管を使っていれば地役権を取得していますか?
A.当然には取得しません。
地役権の時効取得には継続的な行使だけでなく、「外形上認識することができる」という要件があります。
地下埋設管では特に慎重な判断が必要です。
Q.隣地を通る水道管が漏水した場合、隣地を掘ることはできますか?
A.民法上、必要な設備の修繕等のために他人の土地を使用できる場合がありますが、事前通知その他のルールがあります。
承諾書や覚書がある場合には、その内容も確認します。
勝手に立ち入って掘削してよいという意味ではありません。
Q.売却前に水道管を直接引き直すべきでしょうか?
A.ケースによります。
前面道路から直接引込みが可能で、第三者所有地を経由する配管について権利関係が不明確な場合には、直接引込みへ変更することが売却上有利になることがあります。
工事費・道路掘削・水道管口径などを確認したうえで判断します。
■まとめ
他人の土地を通っている水道管は、単なる「配管の位置」の問題ではありません。
重要なのは、
その水道管を今後も使用・維持・修繕する法的根拠があるのか
という点です。
2023年の民法改正によって、ライフラインの設備設置権・設備使用権は以前より明確になりました。
一方で、水道局の申請手続、既存の承諾書、土地所有者変更時の扱い、工事時の立入り・掘削、費用負担など、実際の不動産売買では複数の論点を確認する必要があります。
特に古い住宅地では、現在の所有者自身も「水道管が隣地を通っていることを知らなかった」というケースがあります。
売却してから発覚すると買主とのトラブルになりかねません。
不動産売却では、道路内の水道本管だけでなく、本管から建物まで水道管がどのルートを通っているのかまで確認しておくことが重要です。
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【本ブログ監修者】

株式会社cocoro不動産 代表取締役
★柴田祐介(しばた ゆうすけ)1981年生まれ
大手不動産会社にて、八王子・町田・新百合ヶ丘など多摩地区を中心に約17年間、不動産売買仲介業務に従事。
【保有資格】宅地建物取引士/二級建築士/2級FP技能士/相続アドバイザー二級/秘書検定2級/既存住宅状況調査技術者