マンションの長期修繕計画はどこを見る?
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中古マンションを購入するとき、「長期修繕計画があります」と説明を受けて安心してしまう方は少なくありません。
しかし、長期修繕計画は存在しているだけでは十分ではありません。
重要なのは、いつ作成された計画なのか、どのような工事を予定しているのか、その工事費を修繕積立金で本当に賄えるのかという点です。
特に築年数が進んだマンションでは、外壁や防水だけではなく、給排水管、エレベーター、機械式駐車場、建具など、高額な更新工事が発生する可能性があります。
今回は、不動産売買の実務という視点から、マンション購入前に長期修繕計画のどこを確認すべきなのかを詳しく解説します。
そもそも長期修繕計画とは?
長期修繕計画とは、マンションの共用部分について、将来必要になる修繕工事の内容、実施時期、概算工事費などを長期間にわたって予測した計画です。
例えば、
- 屋上・屋根防水
- バルコニー・廊下防水
- 外壁塗装
- タイル補修
- シーリング打替え
- 鉄部塗装
- 給水・排水設備
- 消防設備
- 電気設備
- エレベーター
- 機械式駐車場
- 外構
- 建具・金物
などが対象となります。
国土交通省では「長期修繕計画標準様式・長期修繕計画作成ガイドライン」を公表しており、現在の標準的な考え方では、30年以上かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上を計画期間とすることが示されています。
【参考:国土交通省「マンション管理」】
長期修繕計画・修繕積立金に関する国土交通省ページ
①まず見るべきは「作成日・最終見直し日」
最初に確認したいのが、長期修繕計画そのものの作成日、または最終見直し年月です。
例えば、
「2012年作成・30年間の長期修繕計画」
という資料を2026年に確認した場合、計画自体は存在していても、14年前の工事単価や設備仕様を前提としている可能性があります。
これでは現在の修繕費を正確に反映しているとは限りません。
国土交通省のガイドラインでは、建物・設備の劣化状況、物価、工事費、材料・工法などが変化するため、5年程度ごとに調査・診断を行い、長期修繕計画を見直すことが必要とされています。
したがって、
「長期修繕計画があるか」ではなく「いつ見直された長期修繕計画なのか」
を見ることが重要です。
②次に「計画期間」を確認する
次に確認するのが計画期間です。
現在の国土交通省の標準的な考え方では、30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とされています。
また、2026年8月現在の「管理計画認定制度」においても、長期修繕計画について、
計画期間30年以上
かつ、
残存期間内に大規模修繕工事が2回以上
という基準が設けられています。
【参考:国土交通省「マンション管理計画認定制度」】
マンション管理計画認定制度について
例えば築25年のマンションで、計画が築30年までしか作成されていなければ、残り5年間しかありません。
その先に予定される給排水設備や建具等の更新費用が十分に反映されていない可能性があるため注意が必要です。
③「大規模修繕工事」だけを見てはいけない
長期修繕計画を見るとき、多くの方が外壁塗装や屋上防水などの「大規模修繕工事」に注目します。
もちろん重要ですが、本当に注意したいのはその後です。
国土交通省のガイドラインでは、大規模修繕工事の目安として、おおむね、
第1回:12~15年程度
第2回:24~30年程度
第3回:36~45年程度
という考え方が示されています。
ところが築30~40年頃になると、大規模修繕以外にも高額な設備更新が重なりやすくなります。
その代表例が、
給排水管
エレベーター
機械式駐車場
サッシ・玄関扉等の建具
などです。
つまり、
「次の大規模修繕のお金があるから大丈夫」
とは限りません。
むしろ長期修繕計画では、築30年以降にどのような工事が集中しているのかを見ることが非常に重要です。
④最重要なのは「収支計画」
私が長期修繕計画を見る場合、特に重視するのが収支計画です。
長期修繕計画には通常、
「工事費の支出」
「修繕積立金の収入」
「修繕積立金残高」
などが年度ごとに記載されています。
ここで重要なのは、
工事を実施した後も修繕積立金残高が維持できる計画になっているか
という点です。
例えば、
修繕積立金残高1億円
↓
大規模修繕8,000万円
↓
残高2,000万円
となっていて、その数年後にエレベーター更新5,000万円が予定されているのであれば、その間に必要な資金を積み立てられるのか確認する必要があります。
グラフが掲載されている場合には、
収入累計線と支出累計線
の関係を見ると分かりやすいでしょう。
将来的に支出が収入を上回る計画になっていないか、一時的に残高が極端に少なくならないかを確認します。
⑤現在の修繕積立金残高と計画上の残高を比較する
これは中古マンション購入時に非常に重要な確認方法です。
長期修繕計画には、
「2026年度時点で修繕積立金残高8,000万円」
と記載されていても、実際の管理組合の修繕積立金残高が8,000万円あるとは限りません。
途中で予定外の工事を行ったり、工事費が想定以上に高くなったりしている可能性があるからです。
したがって、
長期修繕計画上の残高
と、
直近の管理組合決算書に記載された実際の修繕積立金残高
を比較します。
例えば、
計画上:8,000万円
実際:4,500万円
であれば、3,500万円の差が発生している理由を確認する必要があります。
長期修繕計画だけを単独で確認するのではなく、貸借対照表・収支計算書とセットで確認することが重要です。
⑥修繕積立金は「月額」だけで判断しない
よくある判断方法が、
「修繕積立金が月1万5,000円だから大丈夫そう」
というものです。
しかし、住戸面積やマンション規模によって必要額は異なるため、単純な月額比較では判断できません。
国土交通省では、計画期間全体の修繕積立金について、専有面積1㎡当たりの月額単価という考え方を示しています。
機械式駐車場を除いた目安は次のとおりです。
| 建物規模 | 事例の3分の2が含まれる範囲 | 平均値 |
|---|---|---|
| 20階未満・延床5,000㎡未満 | 235~430円/㎡・月 | 335円 |
| 20階未満・5,000~10,000㎡未満 | 170~320円/㎡・月 | 252円 |
| 20階未満・10,000~20,000㎡未満 | 200~330円/㎡・月 | 271円 |
| 20階未満・20,000㎡以上 | 190~325円/㎡・月 | 255円 |
| 20階以上 | 240~410円/㎡・月 | 338円 |
なお、この数字はあくまで統計上の目安であり、この範囲を外れているから直ちに不適切という意味ではありません。
70㎡の住戸で平均252円/㎡・月なら、
252円×70㎡=17,640円/月
程度が一つの参考水準になります。
⑦機械式駐車場があるマンションは別枠で考える
機械式駐車場のあるマンションは特に注意が必要です。
機械式駐車場は、塗装や部分補修だけではなく、設備更新時に大きな費用が発生する可能性があります。
国土交通省のガイドラインでも、機械式駐車場については通常の修繕積立金の目安とは別に加算額を計算する考え方が示されています。
さらに実務では、
駐車場使用料収入を前提にした収支計画
にも注意が必要です。
例えば80台分の駐車場収入を前提としているのに、現在50台しか契約されていなければ、将来的な資金計画に影響する可能性があります。
特に郊外型マンションでは、自動車保有率の変化や高齢化などによる駐車場稼働率の低下も確認したいポイントです。
⑧「均等積立方式」か「段階増額積立方式」かを見る
修繕積立金には大きく、
均等積立方式
と、
段階増額積立方式
があります。
均等積立方式は、計画期間中に必要となる修繕積立金を比較的均等に負担する考え方です。
一方、段階増額積立方式は、当初の修繕積立金を低く設定し、数年ごとに増額していく方式です。
国土交通省は均等積立方式を基本としています。
また2024年のガイドライン改定では、段階増額積立方式について、均等積立方式による月額を基準額とした場合、
初期額は基準額の0.6倍以上
最終額は基準額の1.1倍以内
という考え方も示されています。
したがって中古マンションを購入する場合には、
「今いくらなのか」
だけではなく、
5年後・10年後にいくらになる予定なのか
まで確認する必要があります。
⑨「一時金」「借入金」の予定を確認する
長期修繕計画の資金計画で注意したいのが、
一時金徴収
と、
借入金
です。
例えば、
「2032年度 各戸50万円徴収」
などと記載されていれば、毎月の修繕積立金以外にも費用負担が発生する可能性があります。
現在の管理計画認定制度でも、
「将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していないこと」
「計画期間最終年度に借入金残高がないこと」
などが認定基準に含まれています。
長期修繕計画を見る際は、年度ごとの支出だけではなく、収入欄に「一時金」「借入金」という項目がないか確認してみましょう。
⑩過去の修繕履歴と照合する
長期修繕計画は未来の予定です。
一方、修繕履歴は実際に行った工事の記録です。
例えば長期修繕計画では、
2023年 外壁改修工事
となっているのに、実際には実施されていない可能性もあります。
反対に予定より早く工事を行っているケースもあります。
そのため、
長期修繕計画
修繕履歴
総会議事録
を照合することが重要です。
特に大規模修繕工事を延期している場合には、
「建物状態が良かったため合理的に延期した」
のか、
「修繕積立金が足りず延期せざるを得なかった」
のかでは意味がまったく違います。
長期修繕計画だけではマンション管理は判断できない
中古マンションを購入するとき、長期修繕計画は非常に重要な資料です。
しかし、この資料だけでマンションの管理状態を判断することはできません。
少なくとも、
- 長期修繕計画
- 修繕積立金残高
- 管理費会計
- 管理組合決算書
- 総会議事録
- 修繕履歴
- 管理費・修繕積立金の滞納状況
- 今後予定されている大規模修繕
- 修繕積立金の値上げ予定
などを総合的に確認する必要があります。
国土交通省の管理計画認定制度でも、長期修繕計画だけでなく、管理組合の運営、管理規約、管理費と修繕積立金の区分経理、滞納状況など複数の項目を確認する制度設計となっています。
不動産購入時に私ならここを見る
長期修繕計画を短時間で確認するのであれば、次の順番がおすすめです。
①最終見直し年月
↓
②計画期間
↓
③次回大規模修繕の時期と費用
↓
④築30年以降の高額工事
↓
⑤年度ごとの修繕積立金残高
↓
⑥現在の実際の修繕積立金残高との比較
↓
⑦修繕積立金の値上げ予定
↓
⑧一時金・借入金の有無
↓
⑨機械式駐車場・エレベーター・給排水設備
↓
⑩修繕履歴・総会議事録との整合性
この10項目を見るだけでも、マンションの将来的な資金状況はかなり見えてきます。
まとめ
長期修繕計画で最も重要なのは、「次の大規模修繕がいつなのか」だけではありません。
本当に見るべきなのは、
「将来予定されている修繕工事を、管理組合が現在の資金計画で実行できるのか」
という点です。
立派な長期修繕計画が作成されていても、実際の積立残高が計画を大きく下回っていれば、将来、修繕積立金の大幅な増額、一時金徴収、借入れなどが必要になる可能性があります。
反対に、築年数が経過しているマンションであっても、定期的に計画を見直し、十分な修繕積立金を確保し、必要な修繕を着実に実施している管理組合であれば、適切に維持管理されている可能性は高くなります。
中古マンションは、専有部分の室内状態だけを見るのではなく、建物全体の「将来の修繕」と「管理組合の財務状態」を確認することが非常に重要です。
Q&A
Q.長期修繕計画がないマンションは購入しない方がいいですか?
長期修繕計画がないことだけで直ちに購入すべきでないとは言えませんが、慎重な判断が必要です。
将来必要となる修繕工事と修繕積立金の必要額を管理組合が把握できていない可能性があるため、修繕履歴、積立金残高、管理組合議事録などを詳しく確認した方がよいでしょう。
Q.長期修繕計画が30年以上あれば安心ですか?
30年以上あることは一つの判断材料ですが、それだけでは十分ではありません。
作成年月が古かったり、工事費単価が現在の水準から乖離していたり、実際の積立金残高が計画を下回っているケースもあります。
Q.修繕積立金が高いマンションは悪いマンションですか?
必ずしもそうではありません。
適切な修繕工事を実施するために必要額を確保している結果、修繕積立金が高くなっている場合もあります。
むしろ月額が極端に安い場合には、将来的な値上げ予定や一時金徴収の可能性を確認する必要があります。
Q.中古マンション購入前に長期修繕計画は確認できますか?
多くの場合、仲介会社を通じて売主や管理会社等から確認できます。
ただし、資料の開示範囲はマンションによって異なります。
長期修繕計画だけではなく、重要事項調査報告書、直近の総会議事録、修繕履歴、管理組合の収支状況なども併せて確認すると、より実態を把握しやすくなります。
Q.管理計画認定マンションなら絶対に安心ですか?
一定の公的基準を満たしているという点では重要な判断材料になりますが、将来にわたって修繕費が不足しないことを保証する制度ではありません。
工事費や物価、建物の劣化状態などは変化するため、認定の有無だけではなく、最新の長期修繕計画と管理組合の財務状態を確認することが重要です。
※本記事は2026年8月21日時点の国土交通省公表資料等を基に作成しています。
なお、管理計画認定制度については2027年4月1日から認定制度・認定基準の見直しが施行される予定です。
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【本ブログ監修者】

株式会社cocoro不動産 代表取締役
★柴田祐介(しばた ゆうすけ)1981年生まれ
大手不動産会社にて、八王子・町田・新百合ヶ丘など多摩地区を中心に約17年間、不動産売買仲介業務に従事。
【保有資格】宅地建物取引士/二級建築士/2級FP技能士/相続アドバイザー2級/既存住宅状況調査技術者(受講済)