「父が亡くなり、八王子の実家を売却したいけれど、兄が海外に住んでいる」
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「相続人の一人がアメリカに住んでいて、日本の印鑑証明書が取れない」
「海外に住んでいる相続人は、日本に帰国しないと不動産を売却できないのか」
相続不動産の売却では、このようなご相談があります。
結論から申し上げると、相続人が海外に住んでいても、日本国内の不動産を売却することは可能です。
また、必ずしも売却のために日本へ帰国しなければならないわけではありません。
ただし、海外在住の相続人がいる場合には、通常の相続不動産売却とは異なり、
・遺産分割協議
・相続登記
・住所の証明
・印鑑証明書に代わる書類
・売買契約への署名
・司法書士による本人確認
・売却代金の受領方法
・非居住者に対する税務
などを事前に整理する必要があります。
特に注意したいのは、「海外に住んでいる」という事実だけでは必要な手続きを判断できないという点です。
日本国籍があるのか、外国籍なのか、日本に住民票が残っているのか、不動産を誰が相続するのかなどによって必要書類が変わります。
■まず確認したいのは「誰が不動産を相続するのか」
例えば、父が亡くなり、相続人が
母
長男(日本在住)
次男(海外在住)
の3人だったとします。
この場合でも、必ず3人全員の共有名義にしなければならないわけではありません。
遺産分割協議によって、
「八王子の不動産は長男が単独で相続する」
と決めることもできます。
このケースでは、海外在住の次男は最終的な不動産所有者にはなりません。
しかし、遺産分割協議には相続人全員の合意が必要であるため、海外在住だからといって次男を抜きにして手続きを進めることはできません。
つまり、
海外在住者が不動産を取得するかどうか
と
海外在住者が相続手続に参加する必要があるか
は別問題です。
■亡くなった人の名義のまま買主へ直接登記することはできない
相続した不動産を売却するときに重要なのが「相続登記」です。
例えば登記簿上の所有者が亡くなった父のままであれば、通常は、
父
↓ 相続登記
相続人
↓ 売買による所有権移転登記
買主
という順番で登記を進めます。
亡くなった父から買主へ直接、売買による所有権移転登記を行うという処理はできません。
そのため、売却の前提として、誰が不動産を相続するのかを確定させ、相続登記を行う必要があります。
さらに、2024年4月1日から相続登記は義務化されています。
相続によって不動産を取得したことを知った日から原則3年以内に相続登記を行う必要があり、正当な理由なく申請しなかった場合には10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
海外居住者についても、日本国内の不動産を相続した場合は相続登記義務化の対象です。
■海外在住者は「印鑑証明書」を取得できないことがある
ここが海外相続で非常に重要なポイントです。
日本国内では、不動産の相続や売却に際して、
・実印
・印鑑証明書
を使用する場面があります。
ところが、日本国外へ転出し、日本の住民登録がなくなっている方の場合、通常は日本国内の印鑑登録もなくなっているため、日本の市区町村で印鑑証明書を取得することができません。
そこで使われるのが、
「署名証明(サイン証明)」
です。
海外在住の日本人については、日本大使館や総領事館などの在外公館が、本人の署名が本人によって行われたものであることを証明する制度があります。
外務省も、署名証明について「日本の印鑑証明に代わるもの」と説明しています。
■遺産分割協議書にも署名証明が重要になる
例えば、日本に住んでいる相続人であれば、
遺産分割協議書に実印を押印
↓
印鑑証明書を添付
という方法が一般的です。
一方、日本に住民登録がない海外在住の日本人の場合には、
遺産分割協議書への署名
+
署名証明
という方法が用いられます。
法務省も、外国居住のため日本の印鑑証明書を取得できない場合、日本の領事が作成した署名証明を印鑑証明書に代わる書類として利用できると案内しています。
また、在外公館での取得が困難な場合などには、一定の条件のもと、居住国の公証人が作成した署名証明を利用できる場合もあります。
参考:法務省「外国に居住しているため印鑑証明書を取得することができない場合の取扱いについて」
■署名証明は「先にサインして送ればよい」とは限らない
ここは実務上よく注意するところです。
在外公館で取得する署名証明には方式があり、提出する書類そのものに領事の面前で署名し、その書類と証明書を綴り合わせる方式などがあります。
そのため、
「日本で遺産分割協議書を作ったので、とりあえずサインして返送してください」
と先に案内してしまうと、手続きをやり直すことがあります。
外務省も、署名証明について、領事の面前で署名する必要があるため、対象文書には事前に署名せず持参するよう案内しています。
したがって、海外在住の相続人がいる場合には、書類を海外へ発送する前に司法書士と必要書類・証明方式を確認しておくことが重要です。
■「在留証明」が必要になるケースもある
もう一つ重要なのが住所です。
日本に住んでいる方であれば、住所を証明する代表的な書類として住民票があります。
一方、日本国外に生活の本拠がある日本人については、日本の在外公館が発行する
「在留証明」
を住所証明として利用することがあります。
外務省によれば、在留証明は、海外在住の日本人が外国でどこに住所を有しているかを証明するもので、不動産登記など日本国内の手続にも利用されています。
したがって、海外在住相続人については、
「印鑑証明書がない」
だけを考えるのではなく、
署名をどう証明するか
と
海外住所をどう証明するか
を分けて考える必要があります。
■海外在住者が不動産を相続する場合は「国内連絡先」にも注意
2024年4月1日以降、国外に住所を有する方が所有権の登記名義人になる場合、国内における連絡先に関する情報も不動産登記制度上重要になっています。
制度上、国外居住者については国内連絡先を登記事項とする仕組みが設けられており、制度定着までの間は「国内連絡先がない旨」の登記も認められています。
海外居住の相続人が不動産を取得してから売却する場合には、この点も司法書士と確認しながら相続登記を進める必要があります。
■海外在住の相続人が「不動産を取得しない」場合
実務上は、この形が比較的進めやすいケースがあります。
例えば、
父の不動産を長男が相続
海外在住の次男は預貯金を相続
など、遺産分割協議によって取得財産を分ける方法です。
この場合、次男については遺産分割協議への参加は必要ですが、不動産の所有者にはなりません。
そのため、不動産を相続した長男の単独名義へ相続登記をした後は、基本的には長男が売主となって売却手続きを進めます。
反対に、
長男2分の1
次男2分の1
のように共有で相続すると、売却時には原則として共有者全員が売主になります。
海外在住の次男についても、売買契約・所有権移転登記などに関与する必要があります。
したがって、「とりあえず法定相続分で共有登記をしておこう」と安易に進めないことも重要です。
将来売却することが決まっているのであれば、誰が相続するのかまで含め、遺産分割の段階から売却手続きを逆算して検討した方が手続を簡素化できる場合があります。
ただし、取得する財産の配分によって税務上の扱いなどが変わる可能性があるため、不動産だけを見て判断するべきではありません。
■海外在住者本人が日本へ帰国しなくても売却できる?
ケースによりますが、帰国せずに売却を完了できる場合はあります。
例えば、
・不動産会社との媒介手続
・売買契約
・司法書士への登記委任
・各種必要書類の作成
などについて、郵送、国際宅配、オンライン面談、委任状等を組み合わせて進めることがあります。
ただし、不動産売却では非常に大きなお金と所有権を扱います。
そのため司法書士は、所有権移転登記を行うにあたり、
「本当に本人なのか」
「本当に売却する意思があるのか」
「書類は本人が作成したものなのか」
を慎重に確認します。
海外在住だから本人確認が省略されるわけではありません。
むしろ国内取引以上に、本人確認や意思確認を早い段階から調整することが重要になります。
■代理人を立てればすべて任せられる?
海外在住者が日本国内の親族などへ委任状を出し、一定の手続きを代理してもらう方法もあります。
ただし、
「代理人を立てれば本人の手続が一切不要になる」
とは考えない方が安全です。
売買契約を締結する権限なのか、
売却条件を決める権限なのか、
売買代金を受領する権限なのか、
所有権移転登記を申請する権限なのか、
委任する範囲を明確にする必要があります。
特に売却金額、契約条件、代金受領などまで包括的に代理人へ委任する場合は、委任状の内容を慎重に作る必要があります。
不動産会社が独自に委任状を作り、最後に司法書士へ見せたところ、登記手続に使用できず作り直す、といったことは避けたいところです。
■相続人が外国籍の場合はさらに確認が必要
海外在住者が「日本人」なのか「外国籍」なのかによっても手続は変わります。
日本の在外公館が発行する署名証明は、原則として海外在住の日本人を対象とした制度です。
外国籍の方については、居住国・本国の公証人や官公署等が発行する証明書を利用するなど、別の対応が必要になることがあります。
さらに外国語で作成された書類については、日本語訳が必要になる場合があります。
国によって、
・公証制度
・住所証明制度
・署名証明制度
・公文書の認証制度
が異なるため、海外相続案件では国ごとの確認が重要です。
「海外在住者は全部同じ書類」という考え方はできません。
■売主が「非居住者」に該当する場合は税金にも要注意
海外在住者が不動産を実際に相続し、その方自身が売主になる場合には、さらに重要な問題があります。
それが非居住者の不動産売却に対する源泉徴収です。
税務上の「非居住者」に該当する方から日本国内の不動産を購入する場合、買主は原則として売買代金の**10.21%**を源泉徴収する必要があります。
例えば売買代金4,000万円であれば、単純計算では約408万円です。
ただし、買主が個人で、
・自己または親族の居住用として購入する
・売買代金が1億円以下
という一定の条件を満たす場合には、源泉徴収が不要となります。
ここで非常に大切なのは、
海外に住んでいる=必ず10.21%引かれる
という意味ではないことです。
税法上の居住者・非居住者の判定、買主の属性、購入目的、売買金額などによって扱いが変わります。
■「10.21%引かれる=税金が10.21%で確定」ではない
ここも誤解されやすいところです。
源泉徴収は、最終的な譲渡所得税額そのものではありません。
売却後に譲渡所得を計算し、必要な確定申告を行うことで精算することになります。
実際の譲渡所得は、
売却価格
-取得費
-譲渡費用
-適用できる特別控除等
などによって計算するため、源泉徴収された金額と最終的な税額が一致するとは限りません。
海外在住の売主については「納税管理人」が必要となるケースもあるため、売却契約の直前ではなく、売却準備の段階で税理士等に確認しておくことをおすすめします。
■海外相続では「郵送にかかる時間」も考えておく
海外在住相続人がいる売却では、法律以外に時間の問題もあります。
例えば、
日本で書類を作成
↓
海外へ発送
↓
本人が在外公館等で手続
↓
日本へ返送
↓
司法書士が確認
という流れになると、国内だけで手続きをする場合より時間がかかります。
さらに書類に不備があれば、再度海外とのやり取りが必要になります。
そのため、
「買主が決まってから相続書類を揃えればいい」
ではなく、できれば売却活動を始める段階で、
・相続人の住所
・国籍
・住民票の有無
・必要な署名証明
・住所証明
・本人確認方法
・相続登記に必要な書類
まで確認しておくことが重要です。
■海外在住の相続人がいる場合の基本的な流れ
実務上は、おおむね次のように整理します。
①相続人を確定する
被相続人の戸籍等を確認し、法定相続人を確定します。
②海外在住相続人の状況を確認する
国籍、居住国、日本の住民票の有無、住所等を確認します。
③誰が不動産を相続するか決める
遺産分割協議を行います。
④海外在住者に必要な証明書を確認する
署名証明、在留証明、その他必要書類を司法書士と確認します。
⑤遺産分割協議書を作成する
証明方法まで確認してから署名手続を行います。
⑥相続登記を行う
売却できる登記状態に整えます。
⑦不動産売却を進める
査定、媒介契約、販売活動、売買契約へ進みます。
⑧海外在住の売主がいる場合は決済方法を事前確認する
司法書士による本人確認、登記書類、代金受領方法等を調整します。
⑨非居住者の場合は税務確認を行う
源泉徴収・確定申告・納税管理人等を確認します。
■売却を考えているなら「不動産会社→司法書士」の順番だけではなく同時進行が重要
通常の不動産売却であれば、売買契約後に司法書士へ登記を依頼するケースも少なくありません。
しかし、海外在住の相続人がいる案件では、もう少し早い段階で司法書士と連携した方が安全です。
なぜなら、
「この遺産分割協議書で登記できるか」
「この国ではどの証明書を取得すればよいか」
「署名証明はどの形式が必要か」
「決済当日に本人確認をどう行うか」
などを事前に確認する必要があるからです。
買主が決まり、決済日まであと1か月という段階で初めて確認すると、書類取得が間に合わない可能性があります。
■八王子の相続不動産でも海外在住者がいるケースは珍しくありません
相続したご実家を売却する場面では、子どもが就職や結婚などをきっかけに海外で生活しているケースもあります。
海外在住の相続人がいるからといって、不動産売却そのものを諦める必要はありません。
重要なのは、
「海外にいる相続人をどうやって売買契約に参加させるか」だけを考えないことです。
まず、
誰が相続するのか
↓
相続登記に何が必要なのか
↓
誰が売主になるのか
↓
売却時の本人確認をどう行うのか
↓
税務上、非居住者になるのか
という順番で整理する必要があります。
特に、海外在住の相続人が不動産を取得するのか、それとも国内在住の相続人が単独で取得するのかによって、その後の売却手続は大きく変わります。
株式会社cocoro不動産では、八王子市内の相続不動産について、単に査定価格をお伝えするだけではなく、相続登記や司法書士との連携、売却までの手順を確認しながら進めています。
「まだ相続登記をしていない」
「海外にいる兄弟とどう手続きをすればよいかわからない」
「帰国せずに売却できるのか知りたい」
という段階でも、まず全体の流れを整理することが大切です。
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【本ブログ監修者】

株式会社cocoro不動産 代表取締役
★柴田祐介(しばた ゆうすけ)1981年生まれ
大手不動産会社にて、八王子・町田・新百合ヶ丘など多摩地区を中心に約17年間、不動産売買仲介業務に従事。
建築についても学び、不動産売買だけでなく建物についても確認しながら、お客様に分かりやすい説明を行うことを心掛けています。
【保有資格】宅地建物取引士、二級建築士、2級FP技能士、相続アドバイザー二級、秘書検定2級、既存住宅状況調査技術者