空き家になった実家を放置するリスク
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親が住んでいた実家が空き家になったとき、多くの方が「すぐに売るのは気が引ける」「荷物の整理が終わってから考えたい」「兄弟姉妹で話がまとまっていない」といった理由で、判断を先送りにしてしまいます。
しかし、空き家になった実家は、ただ“使っていない家”ではありません。法的責任、税金、建物の劣化、近隣トラブル、売却価格の下落、相続人間の問題などが時間とともに大きくなる「管理責任のある不動産」です。
全国的にも空き家は増加しており、令和5年住宅・土地統計調査では、空き家数は約900万戸、空き家率は13.8%と過去最高となっています。特に、賃貸用・売却用・別荘等を除いた、いわゆる未活用の空き家も増加傾向にあります。
1. 建物の劣化が想像以上に早く進む
人が住まなくなった家は、想像以上に早く傷みます。
定期的な換気がされないことで湿気がこもり、畳・床・壁紙・押入れ内部にカビが発生しやすくなります。雨漏りに気付かないまま放置すると、屋根、柱、梁、床下などの構造部分まで腐食が進むこともあります。
また、給排水管を長期間使わないことで、排水トラップの水が蒸発し、下水臭や害虫の侵入につながる場合もあります。庭木や雑草が伸びれば、隣地への越境、害虫、景観悪化、不法投棄の原因にもなります。
不動産売却の現場では、数年前なら「古家付き土地」として評価できた建物が、放置によって「解体前提の危険建物」と見られてしまうこともあります。つまり、放置は単に時間が経過するだけでなく、資産価値そのものを下げる行為になり得ます。
2. 倒壊・落下・越境による損害賠償リスク
空き家の外壁、屋根材、雨樋、ブロック塀、庭木などが老朽化し、通行人や隣地に損害を与えた場合、所有者が責任を問われる可能性があります。
民法717条では、土地の工作物の設置または保存に瑕疵があり、それによって他人に損害が生じた場合、占有者または所有者が損害賠償責任を負う旨が定められています。建物、塀、擁壁、屋根材、看板、樹木などは、空き家管理において特に注意すべき対象です。
たとえば、次のようなケースです。
台風で屋根材が飛び、隣家の車を傷つけた。
老朽化したブロック塀が倒れ、通行人にけがをさせた。
庭木が隣地へ越境し、隣家の外壁や雨樋を傷めた。
外壁材が剥がれ、道路上に落下した。
「誰も住んでいないから関係ない」ではなく、所有している以上、一定の管理責任が発生します。特に実家の場合、相続登記が終わっていなくても、相続人が実質的な管理責任を問われる可能性があります。
3. 「特定空家」「管理不全空家」に該当するリスク
空き家を放置していると、行政から「管理不全空家等」や「特定空家等」として指導・勧告等を受ける可能性があります。
空家等対策特別措置法は令和5年12月13日に改正法が施行され、従来の「特定空家等」だけでなく、その前段階にあたる「管理不全空家等」への対応も強化されています。
特定空家等とは、主に次のような状態の空き家を指します。
そのまま放置すれば倒壊等の著しい保安上の危険がある状態。
著しく衛生上有害となるおそれがある状態。
適切な管理が行われず、著しく景観を損なっている状態。
周辺の生活環境の保全のために放置することが不適切な状態。
さらに、管理不全空家等は、今すぐ特定空家とまではいえなくても、放置すれば特定空家等になるおそれがある空き家です。つまり、行政対応は「危険になってから」ではなく、「危険になる前」から始まる可能性があります。
4. 固定資産税が重くなる可能性
空き家を放置する大きなリスクの一つが、固定資産税です。
住宅が建っている土地には、原則として住宅用地の特例があり、固定資産税の課税標準が小規模住宅用地では6分の1、一般住宅用地では3分の1に軽減されます。しかし、特定空家等や管理不全空家等として市区町村長から勧告を受けた場合、その敷地は住宅用地特例の適用対象から除外される可能性があります。
ここで注意したいのは、「空き家だからすぐ固定資産税が6倍になる」という単純な話ではないことです。実際の税額は土地評価額、課税標準、都市計画税、負担調整措置などによって変わります。
ただし、これまで住宅があることで軽減されていた土地の税負担が重くなる可能性がある点は非常に重要です。特に、売る予定も貸す予定もなく、管理も不十分なまま放置している場合は、税金だけを払い続けながら、将来的な負担が増えるリスクがあります。
5. 相続登記を放置すると売却も難しくなる
実家が親名義のままになっている場合、売却を進めるには相続登記が必要になります。
令和6年4月1日から相続登記は義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をする必要があります。正当な理由がないのに申請しない場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。令和6年4月1日より前に相続した不動産も、未登記であれば義務化の対象です。
相続人が複数いる場合、時間が経つほど話し合いは難しくなります。
相続人の一人が亡くなり、さらに次の相続が発生する。
兄弟姉妹の配偶者や子ども世代が関係してくる。
連絡が取れない相続人が出てくる。
意見が合わず、売却・解体・賃貸の判断が止まる。
このように、実家の空き家問題は「建物の問題」だけでなく、「相続人の合意形成の問題」でもあります。
6. 空き家特例を使える期限を逃すリスク
相続した実家を売却する場合、一定の要件を満たせば「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の3,000万円特別控除」を使える可能性があります。
この特例は、相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋やその敷地等を、一定期間内に売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる制度です。ただし、令和6年1月1日以後の譲渡で、相続人が3人以上いる場合は控除額が2,000万円までとなります。
主な要件として、昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること、区分所有建物でないこと、相続開始直前に被相続人以外の居住者がいなかったこと、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること、売却代金が1億円以下であることなどがあります。
重要なのは、「いつか売ればいい」と思っているうちに、税制上有利な期限を逃してしまう可能性があることです。
また、相続後に貸したり、誰かが住んだり、事業用に使ったりすると、要件から外れる場合があります。空き家特例を検討する場合は、売却前に税理士や不動産会社へ早めに確認することが大切です。
7. 売却価格が下がりやすくなる
空き家を長期間放置すると、売却時の評価にも影響します。
築年数が古い実家の場合、買主は建物をそのまま使えるか、解体が必要か、再建築できるか、道路付けに問題がないか、境界が明確か、上下水道やガスの引込み状況はどうか、擁壁や高低差に問題がないかなどを確認します。
特に土地として売却する場合、次の点が価格に大きく影響します。
前面道路が建築基準法上の道路か。
接道義務を満たしているか。
私道の通行・掘削承諾があるか。
境界標があるか。
隣地との越境がないか。
擁壁や高低差に安全上の問題がないか。
解体費用がどの程度かかるか。
建物内に残置物がどれだけあるか。
空き家の状態が悪くなるほど、買主はリスクを見ます。その結果、「解体費用分を差し引いてほしい」「残置物撤去費用を見てほしい」「契約不適合責任を免責にしてほしい」など、価格交渉や条件交渉が厳しくなることがあります。
8. 防犯・火災・不法投棄のリスク
空き家は、防犯面でも注意が必要です。
郵便物が溜まっている、庭が荒れている、夜に明かりがつかない、雨戸が閉まりっぱなしになっていると、外部から見て「管理されていない家」と分かりやすくなります。
その結果、不法侵入、放火、不法投棄、窃盗、動物の住みつきなどのリスクが高まります。
また、火災保険についても注意が必要です。居住用として契約していた火災保険が、空き家状態になった後も同じ条件で有効とは限りません。空き家になった時点で保険会社へ確認し、必要に応じて契約内容を見直すことが大切です。
9. 「解体すれば安心」とも限らない
空き家の相談では、「古いから解体して更地にすればよいのでは」と考える方もいます。
もちろん、倒壊の危険がある建物や、明らかに使えない建物であれば、解体が有効な選択肢になることもあります。しかし、解体には注意点があります。
まず、解体費用がかかります。木造住宅でも、立地、道路幅、重機の入りやすさ、アスベスト調査、残置物の量、隣地との距離によって費用は大きく変わります。
次に、建物を解体すると住宅用地特例が使えなくなり、固定資産税が上がる可能性があります。
さらに、再建築不可の土地や道路条件に問題がある土地では、更地にした後の活用方法が限られる場合もあります。建物を残した方が買主の検討幅が広がるケースもあれば、解体した方が売りやすいケースもあります。
つまり、解体は「最後の手段」ではなく、売却方針・税金・道路・市場性を踏まえて判断すべき選択肢です。
10. 空き家になった実家で最初に確認すべきこと
空き家になった実家を放置しないためには、まず次の点を整理することが大切です。
1つ目は、所有者と相続人の確認です。登記名義が誰になっているか、遺言書があるか、相続人は誰か、遺産分割協議が必要かを確認します。
2つ目は、建物の状態確認です。雨漏り、傾き、外壁、屋根、床下、給排水、残置物、庭木、害虫、近隣への越境などを確認します。
3つ目は、不動産としての調査です。道路、接道、境界、越境、都市計画、建ぺい率・容積率、再建築可否、上下水道、私道負担、高低差などを調べます。
4つ目は、今後の方針です。売却するのか、賃貸に出すのか、解体するのか、相続人の誰かが住むのか、管理を続けるのかを決める必要があります。
判断を先送りする場合でも、「誰が」「どの頻度で」「何を管理するのか」を決めておくことが重要です。
まとめ
空き家になった実家を放置するリスクは、建物が古くなることだけではありません。
倒壊や落下による損害賠償、近隣トラブル、固定資産税の負担増、相続登記の未了、空き家特例の期限切れ、売却価格の下落、防犯・火災リスクなど、時間が経つほど問題は複雑になります。
特に相続した実家は、思い出や感情があるため、すぐに売却を決めることが難しい場合もあります。しかし、不動産は所有しているだけで管理責任と費用が発生します。
大切なのは、「売る・貸す・使う・解体する・管理する」のいずれかを早めに決めることです。何もしないまま放置することが、最もリスクの高い選択になる場合があります。
よくある質問(Q&A)
Q1. 空き家になった実家は、すぐに売却した方がよいですか?
必ずしもすぐに売却すべきとは限りません。ただし、相続登記、建物の状態、固定資産税、空き家特例の期限、相続人間の合意状況を確認せずに放置するのは危険です。まずは現状調査を行い、売却・賃貸・解体・管理継続のどれが適しているかを判断することが大切です。
Q2. 相続登記をしていなくても売却できますか?
売却の相談や査定は可能ですが、買主へ所有権移転登記をするためには、原則として相続登記が必要です。相続人が複数いる場合は、遺産分割協議や必要書類の準備に時間がかかるため、早めに進めることをおすすめします。
Q3. 空き家を解体すれば固定資産税は上がりますか?
建物を解体すると、住宅用地の特例が使えなくなり、土地の固定資産税等が上がる可能性があります。ただし、危険な建物を放置して行政から勧告を受けた場合も、住宅用地特例の対象から外れる可能性があります。解体するかどうかは、売却方針や税金、建物の危険度を総合的に見て判断する必要があります。
Q4. 家財道具が残ったままでも売却できますか?
売却自体は可能な場合があります。ただし、買主から残置物撤去を求められたり、撤去費用分の価格交渉を受けたりすることがあります。相続人で必要なものを確認したうえで、売却前に整理するのが理想です。
Q5. 空き家特例は誰でも使えますか?
誰でも使える制度ではありません。建築時期、被相続人の居住状況、相続後の利用状況、売却時期、売却代金、耐震基準や解体の有無など、細かい要件があります。該当する可能性がある場合は、売却前に税理士や不動産会社へ確認してください。
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【本ブログ監修者】

★柴田祐介(しばた ゆうすけ)
1981年生まれ。群馬県出身。大学卒業後、異業種を経て、その後不動産会社で八王子・町田・川崎にて16年間勤務。
在職期間中の2年間で、建築・デザイン専門学校にて認定単位取得後卒業。
〖保有資格〗
宅地建物取引士、二級建築士、2級FP技能士、秘書検定2級、既存住宅状況調査技術者、相続アドバイザー2級。